リメイク版『犬神家の一族』
しばらく前、舞浜のシネマイクスピアリで、『犬神家の一族』リメイク版を見たのだった。客席はガラガラ。グッズ売り場でも、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の骸骨が場所をとっていて、スケキヨは隅っこに追いやられていた。
それにしても、76年版をここまでなぞるとは……。オリジナリティよりも、伝統の“型”を踏襲することが優先される歌舞伎の再演ものを見ているようだった。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20060926#p1)
サウンドトラック
今回のサントラだけでなく、大野雄二による76年版の音楽がレア音源付きでカップリングされていたので買った。
で、久しぶりに聞き直した76年版のうち、〈怨念〉という7分半の大曲が、エコーの効いたピアノ(エレピ)〜ねっとりしたギター・ソロ〜ベース・リフ中心のパート……という展開において、ピンク・フロイド〈エコーズ〉を下敷きにしてるっぽいと、今さら気づいた。まぁ、太棹三味線が掻き鳴らされるあたり、思いっきりジャパニーズですが(笑)。大好きだったなぁ、この曲。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20061222#p1)
「摂州合邦辻」 by 音羽屋
『犬神家の一族』では遺産相続のため、佐武、佐智がそれぞれ珠世を手ごめにしようとする。物語において、珠世は性的な中心になっている。
相続に関する同様の思惑で、松子も息子の佐清と珠世をくっつけたがっている。しかし、この母は子どもへの愛が強いからか、佐清へのボディ・タッチが目立つ。佐清が手形をとる場面では、彼の手の甲に松子が自分の手のひらを重ねる(というか、押しつける)。また、松子が、あのゴムマスクの頬を撫でまわす場面もある。見ようによっては、佐清と珠世の結婚を望む松子自身が、息子に欲情しているようにも感じられる。そんな関係を、富司純子、尾上菊之助という、音羽屋の実の母子が演じている。
ここで思い浮かんだのが、文楽、歌舞伎の「摂州合邦辻」。
義理の母親(玉手御前)が、先妻の息子(俊徳丸)に恋をする。そして、母にすすめられた酒を呑んだ息子は、顔がただれて失明し、足腰が立たなくなる。そうなった息子に、なおも言い寄る母……。
義母には、実は深謀遠慮があって――と建前っぽいオチが用意されているものの、この芝居の見所はストーカーまがいの母の恋狂いぶりだ。僕は昔、晩年の尾上梅幸(菊之助の祖父)でこれを見たが、老いた名優による母は、腐臭が漂ってきそうな凄みがあった。玉手御前は音羽屋の持ち役として、最近では梅幸の息子、菊五郎がやっているし、さらにその息子、菊之助が継ぐのだろう。
そうしたことが連想されたので、今回の『犬神家』は、歌舞伎の舞台には立てない音羽屋の女、富司純子が、玉手御前のかわりに松子を演じたように見えて、味わい深かった。