ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『犬神家の一族』再映画化

というわけで、市川崑監督、石坂浩二主演の組み合わせでまたもや映画化されるのだが、珠代役は松嶋菜々子にしたのか……。金田一耕助の高齢化に伴い、ヒロインも年増にしたってことでせうか。
犬神家の一族』は、遺産相続との絡みで、珠代はいったい誰の花嫁になるのでしょう?――って話。それなのに、実生活では既婚者かつ子持ちであることが知れ渡っている松嶋が珠代だといわれても、気分がノリませぬ。今の彼女に似合うのは、青沼菊乃役だろう(絶対引き受けないだろうけど)。
ただし、松子=富司純子佐清尾上菊之助には、へえ、そう来たかと感心した。実の親子に親子役をやらせる。しかも、作中で犬神家の家宝とされる「よき・こと・きく(斧琴菊)」を、本当にシンボルとしている音羽屋からキャスティングするとは。
横溝正史の原作にも、

東京の役者の、尾上菊五郎の家にも、斧琴菊という嘉言があるそうですね。

と書かれていた。
さらに歌舞伎でいえば、『犬神家の一族』には、『鬼一法眼三略巻』から「菊畑」の場を模した菊人形に生首が据えられるシーンもあったのだった。


歌舞伎には、「盛綱陣屋」、「熊谷陣屋」、「寺子屋」など、首実検を扱った演目が珍しくない。一方、『犬神家の一族』でも、あの仮面をつけた佐清をめぐり首実検する場面がある(頭と胴体はつながってるし、生きてるけどね)。
歌舞伎では主君へ忠義を果たすため身代わりの首を差し出す、検分する側も薄々それを承知しつつ、あえて気づかぬふりをするという展開が普通だ。それに比べ『犬神家の一族』では、忠義などの大義に基づいてではなく、遺産相続といった個人の欲望から、本物か贋物かの騒ぎが起きる。また、犬神家の人たちは、相手の忠義心に免じて見逃す――などという思いやりからは遠く、私利私欲のため本気で疑う。
歌舞伎、横溝ワールドの両方とも“レトロな日本”には違いない。だが、2種類の首実検を見比べ、忠義という建前の表現/個人の欲望の表現ととらえれば、けっこうな差がある。その意味では、平成の今となっては“時代劇”とさえ思える金田一耕助シリーズも、やっぱり近現代以降の“個人”表現なのであった。

犬神家の一族 [DVD]

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過去の映画化、ドラマ化の配役は、ここで紹介されています。
http://www7.ocn.ne.jp/~yokomizo/haiyaku-inugami.html

  • 6日夜の献立
    • 牛ステーキ(オリーブオイル、にんにく、粒こしょう、赤ワイン、粗糖、ワインビネガー)
    • 菜の花(からししょうゆ)
    • 新たまねぎのスライス(かつぶし、ポン酢)
    • たこやき(市販)
    • 発泡酒雑酒、梅酒、チューハイ