ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

芦辺拓『からくり灯籠 五瓶劇場』

からくり灯篭 五瓶劇場
五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」などの演目を残した歌舞伎作者・並木五瓶を主人公にした連作集。いわゆる本格ミステリではないが、ミステリ的趣向(+怪異)を含んだ、なかなか凝った作りの時代小説になっている。
歌舞伎には、実際に起きた事件を扱った演目が少なくない。だが、ありのままを芝居にするとお上に上演中止にされてしまうから、かなりアレンジしてある(江戸時代の討ち入りが、室町時代の話に化けた「仮名手本忠臣蔵」とか)。それをもとに、さらに別ヴァージョンや外伝が作られたりもした(裏「忠臣蔵」としての「東海道四谷怪談」とか)。そこでは、虚実とりまぜて、複数のストーリーが存在している。
一方、ミステリの場合、真相が明かされるまで推理が繰り返され、仮定のストーリーが何種類も語られることになる。歌舞伎とミステリは、そこらへんが似ている。
芦辺はこの本で、歌舞伎に関する虚/実、ミステリにおける真/仮――という同型性を活かし、二つの領域を混交している。そのような虚と実、真と仮のせめぎあいという意味では、収録作中、「五瓶力謎緘(ごへいのちからなぞのふうじめ)」が、自分には最も楽しめた。
本書におけるメタ意識は、芦辺の過去の作品でいうと『紅楼夢の殺人』に近い感触がある。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20040623#p1