ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

テリー・ボジオ@ぎろっぽん

昨夜、六本木のスイートベイジルでテリー・ボジオを見た。今回の来日で彼は、いろんな人との組み合わせでライヴを行っているが、昨夜は、テリー・ボジオトニー・レヴィン、パット・マステロットのトリオにゲストでアラン・ホールズワースが加わった形だった。第一部、第二部、アンコールの計2時間程度が、全編インプロヴィゼーション。達者な人たちの競演を堪能した。
キング・クリムゾンが6人編成でツイン・ドラムだった頃(もう1人はビル・ブラッフォード)と同じく、マステロットが基本的なパターンを叩くことが多かった。それに対し、なんだかごちゃごちゃいろいろ並べてあって、本人が見えなくなるほどのドラム・セットでボジオが細かく叩きまくる。
いつもあれこれ楽器を持ち替えるレヴィンが今回使用したのは、エレクトリック・アップライト・べースとスティック。前者を弓で弾くのは過去にもよくみたが、後者にまで弓を使うのをみたのは初めて(意識したわけではなかろうが、ところどころ、デヴィッド・クロスみたいに聞こえるフレーズもあった。クリムゾン人脈の手クセか)。
レヴィンはクリムゾンにいる時、〈レッド〉などへヴィ・メタリックなナンバーでは、通常のエレクトリック・べースに持ち替えていたが、今回はそれはなし。なので、指に棒を着けて弾く例のファンク・フィンガーも登場しない。バンドの演奏からは、このセッションの基本的方向性がロック、ファンク系ではなく、ジャズ寄りのものだからレヴィンはそのような楽器選択をしたのではないか、という印象を受けた。
で、第一部に関しては細やかさが勝った抑え気味の演奏だと感じたのだが、第二部後半で爆発。レヴィンがスティックでベースとギター両方の役割をにない、ロック的なリフを弾き出すと、マステロットがそれにあわせたビートでボジオを煽り、彼までロック的でエネルギッシュなドラミングに走る展開になった。
そこで居場所をなくしたのが、ホールズワースである。彼はインプロ中、浮遊感のある音色で時おり速いフレーズを混ぜるというやりかたを繰り返していたのだが、レヴィンがギター・リフの役まで始めると、ホールズワースがギターを弾く余地がなくなってしまう。他の3人の演奏がハードになったら、コードをガーンと鳴らして自分もハードに応じればいいと思うのだが、ホールズワースの美学が許さないのか、相変わらずちまちまピヨピヨ弾いて音がかき消される。そして、ふと気づくと弾くのをやめている。
こうしたパワー・バランスは、アンコールでもあまり変わらなかった。レヴィンがもう司令塔になり、ボジオ、マステロットと3人でアイコンタクトをとってキメのタイミングをはかっていたのに、ホールズワースと他の3人は目線をあわせなかったのだ。
そういえば、4人組だったUKからホールズワースとブラッフォードが脱退し、代わりにボジオが入っただけでトリオ編成になっても、べつに彼のギターがないことに不都合は感じなかったな、なんてことも思い出した。ホールズワースがバンド演奏の骨格になるフレーズをあまり弾かず、効果音的な役割に回りがちだった点は、UK時代と昨夜であまり変わらなかったのではないか(トニー・レヴィンと一緒に演奏する時のトレイ・ガンみたいな)。
自分はレヴィンをみるのが一番の目当てだったから、このハードな盛り上がりには大満足だったが、ホールズワースのファンはどうだったんだろう。今日、明日も同じメンバーでステージを務めるわけだから、今度は彼もアイコンタクトの輪に入りなさいよ、と思いました。
Live With the Tosca Strings [DVD]Double Espressoジャズギター・ブック (Vol.15) シンコー・ミュージックMOOK
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050802#p1