ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

キース・エマーソン@渋谷

昨夜、渋谷C.C.レモンホールでキース・エマーソン・バンドを見た。ナイス時代の〈アメリカ〉から新作《キース・エマーソン・バンド・フィーチャリング・マーク・ボニーラ》の曲までキャリアを総括した内容。予想外にいいライヴだった。
エマーソンのプレイは、年齢もあるし、手のぐあいがもう、いかんともしがたいのだろう。彼らしく鍵盤を弾きまくるものの、フレーズのキレはいま一つで、ミスタッチも少なくない。でも、そのへんはマーク・ボニーラのギターが巧みにカバーしていた。要所要所のメロディをエマーソンとユニゾンで弾き、バックに回った時にはリズムを刻んで曲を引きしめる(80年代イエスで、頼りないトニー・ケイのプレイにかぶせ、トレヴァー・ラヴィンがリック・ウェイクマンの弾いていたオルガン・フレーズまでをギターで再現していたのにちょっと近い)。ボニーラもドラム&ベースも、エマーソンをひきたてるよいサポートぶりだったと思う。
もし、今、エマーソン・レイク&パーマーの3人が揃ってライヴをしたとしても、このキース・エマーソン・バンドほどのアンサンブルは望めないだろう。盛りのすぎたベテランばかりを集めて(オリジナル・メンバー再集結エイジアのライヴみたいに)だれるよりも、体力は落ちつつあっても持ち芸のあるベテランと、テクニック&元気のある若手を組み合わせたほうが音楽は活性化する。マーク・ボニーラという触媒は、ロバート・フリップ抜きの初期キング・クリムゾン再結成=21stセンチュリー・スキッツォイド・バンドにおけるジャッコ・ジャックジックと同様の効果をあげていた。
エマーソンは、リボンコントローラーの使用、キーボードの逆側から弾くバッハという定番のほか、テルミン、ハーモニカまで演奏するなどよく頑張っていた。新曲を意外に多く演奏したのもよかった。新曲といっても黄金時代のパターンを踏襲した曲調だから、かつての曲と並べても違和感はない。また、(前回の来日もそうだったが、)今のエマーソンはEL&Pのようなトリオではなく、ギター入りの4人組用に曲をアレンジしてあるので、昔のままのようでいて、実は微妙な“更新”も行われている。キャリアを重ねた演奏職人の現在のありかたとしては、なかなかよいやりかただと思う。
オープニングでなぜか鼓を鳴らす人が登場したこと(叩きかたは、上手いと思わなかった)、〈タルカス〉の銅鑼がサンプリングだったこと(やっぱり、実際に鳴らしてくれないと拍子抜けする)、元はアコギ中心の〈ラッキー・マン〉をエレクトリック・ギターでアレンジし直しリズムも変えて演奏したというのにエマーソンのシンセ・ソロだけが元のまんまだったこと――など疑問もなくはない。
しかし、大曲〈タルカス〉をほとんど全部演奏し、アンコールを〈ナットロッカー〉で締めくくったステージは、ああ、エマーソンを見たなぁと、思えるものだった。もう、満腹です。

キース・エマーソン・バンド・フィーチャリング・マーク・ボニーラ(初回限定盤)(DVD付)

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(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20070310#p1