ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『すごい廃炉 福島第1原発・工事秘録』の篠山紀信

すごい廃炉 福島第1原発・工事秘録<2011~17年>

すごい廃炉 福島第1原発・工事秘録<2011~17年>

建設専門誌の「日経コンストラクション」「日経アーキテクチュア」が追い続けてきた事故原発廃炉作業の記録をまとめた本。篠山紀信が撮影した福島第1原発と帰還困難区域(福島県双葉町)の写真が多く盛りこまれている。
篠山は、「激写」シリーズのほか、ヘア解禁と話題になった樋口可南子『Water Fruit』、宮沢りえの『Santa Fe』など、ヌード写真でたびたび世間の注目を集めてきた。だが、並行して歌舞伎役者や建築物など幅広い被写体を選んできた写真家でもあり、基本的にはなんでも撮影してしまいたい人なのだと思う。
今回の『すごい廃炉』の写真を見て連想したのは、営業時間終了後の東京ディズニーランド/シーでミッキーマウス&ミニーマウスなどキャラクターたちを撮影した『篠山紀信 at 東京ディズニーリゾート MAGIC』だった。観客(ディズニー風にいえばゲスト)たちが見ることのできない隠された姿を撮ったという意味で、斎藤環は『MAGIC』の写真を[「TDL」の「ヘアヌード」]とレトリカルに評していた。
http://d.hatena.ne.jp/ending/20090425
一方、『すごい廃炉』には、放射性物質による汚染をコントロールして食い止めようとする作業の現場が写されている。普通の人は見ることのできない場所だ。先の斎藤環の表現にならえば、『すごい廃炉』の写真は原発の「ヘアヌード」だし、そうとらえれば篠山の仕事としての一貫性が感じられる。しかもその「ヌード」写真は事故で“死体”と化した原発をなんとかエンバーミングしようと悪戦苦闘している光景を撮ったもの。遺体の保存だけでなく感染症防止も意図しているのがエンバーミングなのだから、この比喩は成り立つ。
秘所をとらえた生々しい写真。

篠山紀信 at 東京ディズニーリゾート MAGIC

篠山紀信 at 東京ディズニーリゾート MAGIC