ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

キスエク“フェニキスの涙”とリンカネ“レウカンセマム”

 (現時点では3人組の)プログレッシヴ・ロックのアイドル、XOXO EXTREME(キスエク)の一色萌が今年、このグループのバック・バンドをしばしば務めているSilent Of Nose Mischief(サイノー)のMorota(Key)と仁科希世彦(Dr)がやっているバンド、re-in.Carnationのボーカルとなって活動し始めた。両グループの新曲は、対照的だ。

 衣裳が白いものにチェンジした時期に発表されたXOXO EXTREME“フェニキスの涙”のまい作詞には「羽ばたけるでしょ 不死鳥のように」。それに対し、黒い衣裳のre-in.Carnation”レウカンセマム”の一色萌作詞には「飛び出した蝶は 空を見ぬまま」。いずれも飛翔のイメージだが、雰囲気は別ものである。2曲とも「輪廻」という言葉が出てくるけど使いかた異なるし、世界観の違いが興味深い。RUSH+YES的で80年代プログレ的な前者と、ミニマルでしっとりした曲調の後者ではサウンドの色あいも違う。

 バンド名の和訳でもある「輪廻」の言葉を織りこんだ“レウカンセマム”の詞世界は、リンカネというバンドを私はこういうものだととらえていますという萌氏の1つの解釈なのだろうし、キスエクとは違ったことをしますという意志表示のようにも感じられる。いろいろ想像させるフレーズがあるし、独特なムードを持った詞だと思う。

  

フェニキスの涙

フェニキスの涙

 

 

レウカンセマム

レウカンセマム

  • 発売日: 2020/08/22
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 

最近の自分の仕事

-「収容所とホテル――東浩紀笠井潔森村誠一における人と数の問題」 → 「CRITICA」vol.15

-ノストラダムスの大予言が残したもの娯楽超え危うさも(インタヴュー取材) https://www.asahi.com/articles/ASN8F5321N8CUCVL01W.html?iref=com_latestnews_02

『日本沈没2020』

日本沈没2020』については、ここ↓に書いた。

-日本沈没2020』は何を描いたのか? 賛否呼んだ同作の狙いを、原作との比較から考察 https://realsound.jp/book/2020/08/post-599671.html

 このサイトにしては長い原稿になったので削った要素もある。そのいくつかを雑記。

 

 原稿で触れた通り『日本沈没2020』には、2006年映画版や小松左京谷甲州日本沈没 第二部』の要素をとりこんだところがある。かつてスティーヴン・キングは自作のホラー小説『シャイニング』を映画化したスタンリー・キューブリック監督の改変を痛烈に批判した。それに対し、キングが執筆した続編『ドクター・スリープ』を映画化したマイク・フラナガン監督は、『シャイニング』の小説版と映画版の要素をいずれもとりこみ、融合させる離れ業をみせた。その域まではとても達していないが、『日本沈没2020』にも融合に関するチャレンジがみられた。

 

 また、すでに指摘されている通り、『日本沈没2020』の家族の状況設定は『サバイバルファミリー』(2017年)に近い。なぜかあらゆる電気が使えなくなり、ライフラインが途絶し都市機能が麻痺した東京から、噂から西のほうに希望があると期待して必死に旅する一家の映画だ。

 一方、歩の母が水中で頑張るシーンは、津波による転覆で上下逆になった豪華客船に閉じこめられるパニック映画『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)のあるエピソードを思い出させる。

日本沈没2020』には、災害フィクションの定跡をたどったような部分がちらほらみられる。

 例えば、母の乗った飛行機が海底噴火の影響(アニメでは機体が受けた衝撃と揺れしか表現されないが、ノベライズでは噴石の衝突が書かれている)で川に不時着するが、『日本沈没』2006年版映画では首相の乗った飛行機に火山弾が当たり墜落していた。

 

 

最近の自分の仕事

-尾崎世界観が語る、人からの影響とコロナ禍の音楽活動「今はいらないものに気づく時間」(文・取材)https://realsound.jp/book/2020/07/post-590333.html

「不安の受容」

 原発事故後の放射能汚染、地下鉄サリン事件後のテロ、80年代のエイズ、70年代の公害……。実態をよくつかめないまま盛んに報道され不安や恐怖が煽られるけれど、それが続きすぎて日常になってしまうと人々はやがて慣れ、気にしなくなっていく。そんな「不安の受容」は過去に何度もあったというのに、上手な慣れかたを社会として覚えられない。世界的規模の広まりをみせる新型コロナウイルスに対して各国の人々は、相変わらず右往左往している。

 問題に関して「対策を進める」と「日常になって慣れる」をどうすりあわせていくのか。過去の「不安の受容」はどのような過程をたどったのか。あらためてたどり直したい。手頃な資料があれば読んでみたい。

五島勉、小松左京と氷河期

ノストラダムスの大予言』(1973年)の著者、五島勉が90歳で死去していたと伝えられた。

https://bunshun.jp/articles/-/39132?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=socialLink

 私は『ノストラダムスの大予言』を一つの軸にして『戦後サブカル年代記 日本人が愛した「終末」と「再生」』を書いたのだった。お世話になりました。  

 

 今となっては、『ノストラダムスの大予言』は1999年に空から恐怖の大王は降ってこなかったねーって話になる。それ以上にはずれたのは、「大地と大気は冷えていく」という予言詩だろう。同書と同時期に『日本沈没』(1973年)がベストセラーになった小松左京は、最近では『復活の日』(1964年)で現在のパンデミックを予想していたかのように思える。でも、1970年代にはいずれ氷河期がくるのではないかと真面目に議論されていて『ノストラダムスの大予言』はそれに乗っかっていた。そして、小松も地球が冷える可能性を真面目に議論していたのだ。地球温暖化など想定されていなかったし、その意味では五島だけでなく小松も予言者ではなかった。 

 

『人間革命』不在

 市内の図書館に大槻ケンヂ『のほほん人間革命』は単行本と文庫の両方あるのに、あの何巻にもおよぶ池田大作『人間革命』が一冊もないと知った。意外。浦安には創価学会の立派な施設もあるのに。ありがたいから借りずに買って読めということなのかと思ったら、隣の江戸川区の図書館には揃っているようだ。

 最初は丹波哲郎主演の映画『人間革命』を検索したのだけれどこれもないし、DVDは入手難みたい。ただ、橋本忍のシナリオだけはとりよせて読んだ。

 なぜそんなことに関心があるのかというと、最近話題の『日本沈没2020』を見ていて、かつての映画『日本沈没』へさかのぼれば、1973年公開、丹波出演、橋本シナリオという点が映画『人間革命』と共通しているから。前回のブログに書いた通り、古川日出男『おおきな森』を読んで以来、日蓮の系譜への興味が高まっているというのもある。

 というわけで、国柱会の田中智学が作った言葉「八紘一宇」を軸に日蓮傾倒者の流れを追った本に目を通した後、『人間革命』早わかり的な本をめくり中。

 

 

 

『人間革命』の読み方 (ベスト新書)

『人間革命』の読み方 (ベスト新書)

 

 

 

最近の自分の仕事

-「夜明けの紅い音楽箱」(とりあげたのは浦賀和宏『時の鳥籠』 → 「ジャーロ」No.72

 

ジャーロ No. 72

ジャーロ No. 72

  • 発売日: 2020/06/26
  • メディア: Kindle
 

 

宮下隆二『イーハトーブと満州国 宮沢賢治と石原莞爾が描いた理想郷』

 

   法華経を絶対視して『立正安国論』で仏教的ユートピアを唱えた日蓮を信奉する宗教団体・国柱会にそれぞれ入信していた宮沢賢治石原莞爾。詩人・作家・教員の宮沢と軍人の石原で立場は異なるが、いずれも東北出身であり国柱会の影響下でイーハトーブ満州国という理想郷を思い描いた共通性を古川日出男おおきな森』は、モチーフとしてとりこんでいた。同作で2人の対比に興味を持ち、そのことをテーマにすえた宮下隆二『イーハトーブ満州国』に手を伸ばした。 

 著者は、宮沢賢治石原莞爾だけでなく北一輝井上日召という日蓮主義に連なるものが活動し、創価学会霊友会立正佼成会という法華経系教団が相次いで立ち上がった昭和初期を「法華経の時代」と呼ぶ。この本を読むと、この国における日蓮および『立正安国論』の影響の根深さを感じる。

 そういえば映画『人間革命』で創価学会第二代会長の戸田城聖を演じた丹波哲郎は、映画『日本沈没』(音楽は『ゴジラ』で有名な伊福部昭)では消滅する列島から国民を避難させようと奮闘する首相役を、映画『ノストラダムスの大予言』では予言詩を参照して人類滅亡の危機を警告し国会で演説する環境学者役を務めたのだった。そのように一人の同じ俳優が宗教と政治の両面で憂国の情を説いたこと、また3つの映画の政策がいずれも田中友幸であり、『人間革命』と『日本沈没』のシナリオがどちらも橋本忍であったこと、『人間革命』と『ノストラダムスの大予言』の監督が舛田利雄だったことは、宮沢賢治石原莞爾の意外な共通性にも通じているようで興味深い。  

 

最近の自分の仕事

-阿津川辰海『透明人間は密室に潜む』のレビュー → 「ハヤカワミステリマガジン」7月号 

ミステリマガジン 2020年 07 月号 [雑誌]

ミステリマガジン 2020年 07 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: 雑誌
 

 -矢野利裕『コミックソングがJ-POPを作った』評 → 共同通信が地方紙に配信した書評コラムシリーズ「積ん読崩し」の1つ https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1103264

大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研! TWENTY TWENTY』

 

ジャニ研! Twenty Twenty ジャニーズ研究部

ジャニ研! Twenty Twenty ジャニーズ研究部

 

 

 本日発売のジャニーズ研究部『ジャニ研! TWENTY TWENTY』。大谷能生速水健朗・矢野利裕の鼎談は、ネット解禁したジャニーズのコロナ禍での活動に触れて終る。巻末年表は5/13期間限定ユニットによるコロナ拡大防止チャリティソング制作発表、5/15嵐の新曲デジタルリリースまでだ。その後、手越祐也があんなことになり今夜のように退所会見をYouTube生配信するとは予想できなかっただろうな。

 

最近の自分の仕事

-「プログレッシブ・ロック前夜の鼓動」 → 「METAL HAMMER JAPAN」Vol.2