(「ディズニー/浦安的風土記」その1 2005/01/10記)
ふと、思い立ち、東京ディズニーリゾート(TDR)をサイクリングしてみた。
浦安市の元町(昔から人が住んでいた地域。元は漁師町)にある我が家から、JR京葉線・舞浜駅の海がわに自転車で回りこむまでが約15分。ごく普通のママチャリである。東京ディズニーシーの入り口付近から、モノレール(=ディズニーリゾートライン。延長約5km)の軌道を追うように、その外がわの道路を走った。
東京ディズニーシーの脇を過ぎ、東京ディズニーリゾート・オフィシャルホテル群を抜け、東京ディズニーランドを回り、ディズニー・コンセプトのショッピングセンター=イクスピアリ、ディズニーアンバサダーホテルを横目にさらに走って、ようやくスタート地点に戻る。自転車で歩道を伝って1周するのに、約30分。一生懸命飛ばしたわけではなく、わりとゆっくりしたスピードである。
1月の冷たい空気を肌に感じながら、ヤシの木の植えられた暖かい南国イメージの空間を走るのは、妙な気分だった。TDR地区は、施設外の道路という公共空間までもが、アメリカ的に演出されている。
この近辺は、自動車やバスでの移動がほとんどらしく、人通りは少ない。歩道ではマラソンする2、3人とすれ違った程度だった。
道路のディズニーシー、ディズニーランドがわには歩道は設けられておらず、逆がわしか人は通行できない。施設に不用意に部外者を近づけない、という配慮が感じられる。その排他的な“配慮”を意識してしまうと、自分がスパイとしてこの地区に潜入したみたいな気分になってくる。
豪華客船、大火山、城といった大型建造物の上部だけは敷地外からも見えるが、基本的に中の様子は、壁や緑で隠されている。ディズニーのテーマパークは、景観(ランドスケープ)を徹底的に管理することで成り立っている。それは施設内外の区別をはっきりすることでもあるのだが、線引きは二重になっている。その線引きを(内)外、<内>外で表すと次のようになる。
<(ランド=夢の世界)(シー=夢の世界)イクスピアリ、ホテル、“舞浜駅”を含むリゾート全体=夢的な世界>浦安市=つまらない日常世界
元町地区からの地べたの連続を実感しながらTDR地区へ自転車で移動すれば、この線引きの威圧感を肌でとらえることができる。
TDRを一周後、私は舞浜駅の逆がわ(内陸がわ、元町がわ)に回った。TDRに来たことのあるあなたは、駅の“裏がわ”、ディズニー的なものの存在しないがわに出たことがあるだろうか? 駅の表がわと“裏がわ”では、景観にとてつもない落差があるのだ。
そこは、ひたすら殺風景である。表がわのようなバスロータリーはなく、自転車置き場があるくらい。視界に入るのは何車線もの道路と、それをまたぐ歩道橋だけ。こちらがわにはスーパーはなく、パチンコ屋、呑み屋のたぐいもない。一般的な意味での店舗がない(かろうじて遠くに、セブン-イレブンの看板が見えるくらい)。確かに駅と隣接した商業施設イクスピアリはあるが、あれはあくまでテーマパーク的ショッピングセンター。「大根1本80円」的な、日々の暮らしに直結したものなどはただの一つだって売られていない。舞浜駅周辺からは、入念かつ徹底的に、地元住民の生活の臭いが消されている。
それでは、駅周辺には住む人はいないのか?いや、棲息している。何車線もまたいだ歩道橋の先の道路の脇には、長く高い防音壁が立てられている。その壁の隙間に注意すれば、あなたは住宅街を発見できるだろう。歩道橋をわたった人はそこに帰っていくのだ。
しかし、その壁は本当はなにを防いでいるのだろう? 車の音などではあるまい。夢の空間を演出するというTDRの至上命題のもと、生活の臭いの侵入を防いでいるのだ。ここでは、ある種の隔離政策がとられている。