ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

観世流 能「道成寺」

NHK教育テレビで、能の「道成寺」を観た。「道成寺」は歌舞伎では何度か楽しんだけれど(雀右衛門玉三郎福助などが記憶に残っている)、能では観たことがなかったのだ。歌舞伎版は、着せ替え人形的な華やかさと長唄のにぎやかさで客を歓ばせる。それに比べて能版は地味だが、迫力では勝るかもという印象である。
大きな無音のところどころに打たれる小鼓と裂ぱくのかけ声にあわせ、ステップが踏まれる瞬間の緊張感。音の余白が目立つそんな乱拍子から、音が立て込んだ急の舞にがらっと変化するあたりは非常にひきつけられる。そしてなにより、「鐘入り」の場面だ。舞台の中央に吊り下げられた鐘の真下に来たシテの白拍子が飛び跳ねたとたん、鐘が落とされる。そうなるとわかっているのだけれど、このスペクタクルにはハッとさせられる。乱拍子や急の舞といい鐘入りといい、とにかく間合いに迫力がある。
ミュージカル「オペラ座の怪人」(ロイド=ウェバー版)では、開巻冒頭でシャンデリアを吊り下げる(サスペンド)ところを見せておき、第一幕最後でファントムがシャンデリアを落とすクライマックスに至る。客にサスペンドを意識させることで、サスペンスを増幅するわけだ。一方、能「道成寺」でも物語が始まる前、わざと舞台裏を見せるように、わざわざ客の前で鐘を吊り下げていた。そんな風に「オペラ座」を先どりしたサスペンド=サスペンス演出が、安土桃山時代には成立していたというんだから、驚いてしまう。うーむ。やっぱりあの迫力はテレビじゃなくて、生で観なきゃなぁ、と思いました。
(関連雑記 http://d.hatena.ne.jp/ending/20040604

ユリイカ2004年9月臨時増刊号 総特集=西尾維新