ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

綾辻行人×佐々木倫子/×奈須きのこ

「月刊IKKI」で原作綾辻行人、画佐々木倫子による『月館の殺人』の連載がスタートした。“鉄道ミステリ”と銘打たれているが、主人公となる沖縄の女子高生は、これまで電車に乗ったことがない設定。いきなり、ひねったことをやっている。その娘・空海(そらみ)が鉄道を使いそうな状況になると、じたばたして妨げてしまう母親の様子に、綾辻テイストを感じた。病的な印象にどことなく、『最後の記憶』や『暗黒館の殺人』に出てきた母親像に通じるものを覚えたのである(といっても、後半にどうひっくり返されるかわかりませんが)。
父母を失ったそのヒロインが、遺産相続の関係で北海道に連れて行かれ、初めて電車に乗り込もうとするところで第1回は終っている。うーむ。あれもこれも全部伏線ではないかとすべてのコマを疑ってしまう。次号発売は1月25日。
連載スタートにあわせ、「ダ・ヴィンチ」最新号に綾辻、佐々木のインタヴューが掲載され、他のミステリ作家原作によるコミックもガイドされていた。そこで紹介された原作者は、江戸川乱歩横溝正史といった大御所のほか、歌野晶午山口雅也二階堂黎人森博嗣太田忠司はやみねかおる、そして本格ミステリ大賞をとった乙一など。この小特集をみると、新本格ミステリとコミックの親和性の高さがよく伝わってくる。
一方、発売日に買ったはずなのに年末のどさくさに突入して読まないままになっていた「メフィスト」1月号を今さらめくると、ここでは綾辻行人奈須きのこと対談していた。奈須が綾辻読者だったことから実現した企画らしい。“新伝綺”作家であると同時に本格を愛好する奈須と、本格ミステリ作家であると同時にホラー作家でもある綾辻。見ようによっては近い体質ということで、和やかに語っている。
しかし、奈須のフィールドであるゲーム一般、それとも関連するライトノベル一般へと話題が広がると、綾辻の応答は微妙な雰囲気になる。清涼院流水から西尾維新佐藤友哉などに至る、ゲームの影響が濃厚な新本格“風”小説について、いわゆる新本格を立ち上げ定着させてきた先行世代は、一種の鬼っ子たちと見ているからだ。
ダ・ヴィンチ」の小特集では、新本格とコミックの親近感が全体を覆っていたのとは異なり、「メフィスト」の各世代代表による対談では、本格とゲーム/ラノベの間で親近感と違和感がせめぎあう現状がうかがえる(もちろん、後者で「違和感」が活字化されたのは、掲載誌の性格の違いということはある)。ラノベ本が相次いだタイミングで、こうした親近感と違和感のせめぎあいを浮き上がらせたのは、対談企画としてよかったと思う。
あとはないものねだりだが、対談ではなく座談会が読みたかった気もする。新本格とゲームの接点が語られるときには、我孫子武丸の『かまいたちの夜ASIN:B00005OV4Oされることが多い。だから、我孫子×奈須の組み合わせも読みたかったし、京大ミステリ研出身として綾辻我孫子の同時登場もアリだったのではないか、と考える次第。


ちなみに、佐々木倫子については、『動物のお医者さん』のシベリアン・ハスキーの面がまえが好きです。
動物のお医者さん (第1巻) (白泉社文庫)
最近、画像をデカくするのが面白くてしかたがない。コンピュータが未だに苦手なメディア原始人なので、ちょっと覚えると馬鹿みたいに使いたがるのである。