《ツール・ド・フランス》リリース後のツアーから、各地の音源を編集したライヴ盤。とはいえ、クラフトワークみたいな打ち込み音楽だと、ステージで実際に“演奏する”部分は少ないし、あらかじめ作っておいた最新ヴァージョンをメンバー立ち会いのうえ会場で“再生する”みたいな感覚に近くなる。ところどころ歓声が聞こえるにしても、さほどライヴ盤っぽくならない。だから、今回の作品については、かつてのリメイクによるベスト《ザ・ミックス》の第2弾的な“ニュー・ベスト”として聞き始めた(その意味では〈アウトバーン〉や〈ラジオアクティヴィティ〉などは、オリジナルからかなり変貌していて面白い)。
ところが、ライヴ盤ディスク2の〈ポケット・カルキュレイター〉からメドレーで〈電卓〉に続いたところを耳にして、え? と思った。
ボク ハ オンガクカ デンタク カタテ ニ
例の日本語詞を、客の一団がご唱和しているのだ。
「僕は音楽家、電卓片手に!」
バンドと客の生の交流――である。まるで、“ライヴ”みたいな盛り上がり……。
データを見ると〈電卓〉のみ、2004年3月4日TOKYO SHIBUYA AXでのレコーディングとなっている。僕も見に行った日である。そうだ、思い出した。クラフトワーク相手に、合唱めいたことが起きたのをちょっと意外に思った記憶がある。
彼らは、アンコールで、〈ザ・ロボット〉をロボットに演奏させるパフォーマンスをした。それはえらく客にウケていたけれど、ロボットによる自動演奏と、メンバーがステージ上にいたうえでの“演奏”では、根本的に差はなかった。客はそんな、非ライヴ性を承知のうえで楽しみ親しんでいた。僕だって楽しんだ。
でも、クラフトワークは70年代末に“テクノ・ポップ”と呼ばれ出す以前には、プログレの端っこの“前衛音楽”みたいな扱われかただった。メカニックな自動演奏で自己完結した一種の“実験”=とっつきにくい――ととらえられていたのだ。合唱が起きて、ステージとフロアが親しむような、フレンドリーな音楽とは、思われていなかった。
そういえば、90年代にセックス・ピストルズが再結成し、武道館公演で大合唱になった時にも、僕はふと、変な感じを覚えたのだった。現役時代のピストルズは、ライヴでの喧嘩騒ぎばかり話題になったのであり、合唱なんて“友好”ムードはとても想像できなかった。
ピストルズで大合唱、クラフトワークで唱和。
初期の性格づけから遥か彼方に遠ざかり、後世になってフレンドリーに響くようになる……。これも彼らの音楽自体が持っていたポップさのマジック、ですね。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050601#p1)