ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

朝日の朝刊「文学賞異変」

朝日新聞の今日の朝刊に、1面トップにするほどの内容じゃないと思うが、「文学賞異変」という記事が載っている(署名は「野波健祐」)。その見出しを並べると――

文学賞異変
創設ラッシュ 審査員から作家外し
テーマは「恋愛」「青春」「感動」
権威より販促

というわけで、大塚愛成宮寛貴柴門ふみらが選考委員をする「日本ラブストーリー大賞」(宝島社)、読者投票を行う「青春文学大賞」(角川書店)の創設などが紹介されている。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050531#p1
記事では、審査員から作家を外した賞が増えたきっかけとして、「本屋大賞」の成功を指摘する。そのうえで記している。

文学賞は権威付けのために選考委員に作家を起用してきたが、販売促進のためには不可欠ではない――出版業界に「学習効果」が生まれた。

現状をみると、文学賞が多いくせして選考委員の作家は意外に重複しており、それぞれの賞の性格が曖昧になっている。だったら、いろんな選考方法を導入して特色を出せばいい、と僕は思う。出版業界が「販促」の意識を持つのも悪くないだろう。読者や書店など、買い手、売り手の目線で、ジャンルへの新規参入者を選ぶこと。これってグラビア・アイドルやバンドのオーディションでは珍しくない。小説について、そういう選び方をしていけない理由はない。まぁ、それだけになるのは、ヤだけど。


しかし、この記事、「ダ・ヴィンチ文学賞」スタートに触れていないのは、怠慢ではないか? どこまで読んでもこの賞の話が出てこないから、驚いてしまった。
ダ・ヴィンチ」といえば、ポピュラーな“本の紹介誌”だ。また、出版社や書店の担当者のコメントも掲載し、一般読者の感想と評論家の記事を同居させるあたり、“本にまつわるもろもろのコーディネーター”といったスタンスである。そんな文芸誌とは異なる性格の雑誌が、最新号で「文学賞でひと花!」なる特集を組んだ(小説の書き方コーナーがあるだけでなく添削サービスや自費出版の記事・広告まであり至れり尽くせり)。と同時に、「ダ・ヴィンチ文学賞 公募スタート!!」を発表し、そのことを表紙でも謳っている。しかも、事前に公募した「読者100名審査員」が二次選考をし、その結果をもとに編集部と「ダ・ヴィンチ文学賞映像化検討委員会」が最終選考をするというのだよ? なんでこの話題が、「文学賞異変」の記事に出てこないわけ?
とはいえ、「文学賞」というキーワードに関する記事中解説コラムの一節は妙に面白かった。

賞金額は「このミステリーがすごい!」大賞の1200万円から0円(メフィスト賞)まで。

「このミス」大賞とメフィスト賞。両方とも従来の賞とは違う性格を打ち出したものだが、賞金額でも両極端なのがおかしい。いずれもミステリ中心の賞なんだから、応募者がどちらに出すか迷う局面もあるはず。けど、1200万円か0円(本になれば印税は支払われますが)かの選択だもんなぁ……。
それにしても、「ダ・ヴィンチ」は、いかにもこの雑誌らしい賞を考えたもんだと思う。僕としては次に、“小説ファン・マガジン”を名乗り、読者に独特の寄り添いかたをしている「活字倶楽部」が新人賞を創設することを勝手に期待している。
ダ・ヴィンチ 2005年 07月号
ちなみに今日の午後、作家と書評家が投票で選ぶ「本格ミステリ大賞」のパーティに出かけます。