ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

阿部真大「世界はロックでできている」

(小説系雑誌つまみ食い 29――講談社BOXマガジン「パンドラ」Vol.1 SIDE−A)

パンドラVol.1 SIDEーA
ファウスト」で上遠野浩平がロックに関するエッセイ(「Beyond Grudging Moment」)を連載していたのと対応するかのごとく、新雑誌「パンドラ」でも、阿部真大が上記タイトルのようなエッセイを連載している。
『搾取される若者たち バイク便ライダーは見た!』asin:4087203611ザ・スミス〈ヘヴン・ノウ・アイム・ミゼラブル・ナウ〉を引用した阿部が、「世界はロックでできている」第1回で取り上げたのはザ・キュアーザ・スミスザ・キュアーといえば、80年代UKシーンにおける“みじめさ”の双璧である。もちろん、売れ行きのことではない。キャラクター、姿勢、テーマにおける“みじめさ”だ。
先日、テレ朝系「スマステーション」で80年代洋楽を特集していたが、あれはバブルに向かって浮ついていた当時の気分を懐かしむものだった。かつての“勝ち”(の幻)を反芻するというか。
そういう文脈だと出てこない80年代バンドが、ザ・スミスザ・キュアーである。いかにも、『搾取される若者たち』を書いた人らしいセレクトだと思う。
阿部は、ザ・キュアーを取り上げた原稿のなかでスラッカー・アンセムと呼ばれたレディオヘッド〈クリープ〉に言及しているほか、ウィーザー、アッシュ、銀杏BOYZなどにも触れている。

要するに、「大人の世界」に対して、何とか勝とうと努力するのではなく(勝つことは、みずから制圧する側、つまり「大人」の側にまわるということだ)、負け続ける(負けることは、ひとつの抵抗のありかたでもある)。

阿部は、ザ・キュアーロバート・スミスの歌声についてこう評したうえで、エモの話題に移っていく。

ギターが轟音で鳴っていて、それに負ける。しかし、負けながらも何とかくらいついていく。

このエッセイを読むと、阿部にとって「負け続ける」ことが、彼の考えるロックの定義なのだとわかる。
であるなら、「世界はロックでできている」連載で今後取り上げられるのは、エモのほか、シューゲイザーグランジ、ローファイといったあたりだろうと予想するのだが、どうか。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20070727#p2


ちなみに、かつて「ファウスト」に掲載された西尾維新新本格魔法少女りすか』のキャッチ・コピーに、「心に茨を持った少年」というフレーズが使われていた。〈心に茨を持つ少年 THE BOY WITH THE THORN IN HIS SIDE〉は、ザ・スミスの曲。