(「ローレゾリューション論(仮)」のための覚書 7)(“評論”レヴュー/“レヴュー”評論 4)
「論座」5月号
特集「ゼロ年代の言論」には、ネット的な言葉の流れ&速さ(例えば、短期間で大量の言葉が同期してしまうこと)に批評の言葉をどのように対置するか――というテーマが漂っていた。
酒井信の「『空気』に抗う批評」という原稿など、その典型。彼は、ブログ炎上に象徴されるネットという同期メディアの速さを念頭に、自身が紙媒体に書くことを好む理由をこう記す。
紙媒体の雑誌であれば、「空気」にさほど左右されることなく、「瞬間のインパクト」や「持続的な好感度」に還元できないような内容の文書を読者に届けることが容易になる。
ここでは、ネットに対する紙媒体の“遅さ”が肯定的にとらえられている。
考えてみれば、こうした事情は紙媒体に限らない。同特集にも寄稿した荻上チキが編集長を務める「αシノドス」など、メールマガジンという媒体も、ネットの直接的同期性から距離をとった器という意味では、やはり好ましい“遅さ”を求めている。
また、今回の「論座」の特集は「相次ぐ新雑誌創刊を考える」とサブタイトルがつけられているからさほど話題に上っていないが、鈴木謙介がラジオの“遅さ”を発見した「文化系トークラジオLife」も、一連の新雑誌と同様の意味を持つ。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20080325#p1)
一方、同特集の鼎談で東浩紀は、対面コミュニケーションなど“つるむ”場の有効性を語っている。これは、ネット的な同期する共同性とは別種の、“語り合い”の共同性を求めている点で「Life」と同型である。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20080329#p1)
「ゼロアカ道場」と「書評王の島」
「論座」の特集でも話題になっていたが、東浩紀は「ゼロアカ道場」という批評家養成プログラムを進めている。そこでは、ゼロ年代のネット環境論をめぐって目立つ存在だった東が、多くの批評家の卵たちを“教育”している。
この光景は、(「ゼロ年代の言論」特集からは離れるが)ゼロ年代を代表する書評家・豊崎由美が、「書評の愉悦」という講座を開いているのと似ている。Amazonレビューに代表されるように、ほとんど動物的反応にすぎない感想が容易に大量に出回る現状に対し、『そんなに読んで、どうするの?』、『どれだけ読めば、気がすむの?』という書評集のタイトルが象徴するごとく、自らも大量に読んだうえでコメンテーターとして筋を通すトヨザキ社長。それは良貨で悪貨を駆逐してやろうという姿勢だし、そんな社長が講師となって、書評家志願者たちを育てている。
最近、「おまいらの2chで成し遂げた功績を語れ」というスレッドで、次の発言を見つけた。
239 : 巡査長(アラバマ州):2007/08/12(日) 14:02:26 ID:TwgT/nTA0: ネットイナゴってフレーズを最初に使ったのはオレ。 イメージしたのは「エクソシスト2」のイナゴのシーン。 コレ到る所で主張してるのに相手にしてもらえない。
『エクソシスト2』では、大量に押し寄せるイナゴが悪魔の象徴として描かれていた。そして映画のなかでは、悪いイナゴの大群に対し、良いイナゴを増やして対抗しようとする男が登場したのだった。
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ネットイナゴとは、特定の場所に発言が集中した状態を指すが、そもそもネット自体が、ふだんからイナゴが大量に飛んでいるみたいな状態なのだ――という感覚を持っている人は多いと思う。
で、「ゼロアカ道場」でいろいろな論文が書かれた様子を知ったり、
http://shop.kodansha.jp/bc/kodansha-box/zeroaka.html
「書評の愉悦」講座メンバーの原稿を集めた「書評王の島」を読んだりすると、
http://d.hatena.ne.jp/bookreviewking/about#p2
悪いイナゴの大群に良いイナゴの大群を立ち向かわせて悪魔に勝とうとした『エクソシスト2』を思い出してしまうのだった。
悪い共同性に対しては良い共同性を、悪い大量に対しては良い大量をぶつけよう――という発想、感覚が、ゼロ年代の批評の周辺にはうかがえるというわけだ。その意味では、新媒体の始動がネット的な“同期”に対抗するかのごとく相次ぐ現状も、一種の必然といえるのではないか。
(『エクソシスト2』のなかで、良いイナゴは善の象徴だったんだから、ただ「イナゴ」と書いたというだけで悪い意味にとらないでくださいましね、関係者の方々)
- 9日夜の献立
- 塩鮭
- 切干大根、しいたけ、ひじきの煮物
- サラダ菜
- かんぴょうの味噌汁に玉落とし
- 玄米ごはん
- 発泡酒