『ディストピア・フィクション論』発売一周年

 

 

 昨年の今日、『ディストピア・フィクション論 悪夢の現実と対峙する想像力』を発売したのだが、1年後に現実世界がここまでディストピア化するとは想像していなかった。

 

 同書刊行記念の速水健朗とのイベント「悪夢の現実と対峙する想像力」(2019年9月10日、ゲンロンカフェ)では、桐野夏生『ハピネス』、新海誠『天気の子』、『トイ・ストーリー』シリーズ、クリスティーナ・ダルチャー『声の物語』、ナオミ・オルダーマン『パワー』などについて話した。

 藤田直哉の連続トーク「震災後文学を語る集い」に登壇した時には、『ディズニーの隣の風景』にも記した3.11直後の浦安を語ったほか、佐々涼子『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』、北条裕子『美しい顔』、藤田直哉『娯楽としての炎上 ポスト・トゥルース時代のミステリ』などに言及(2019年10月19日、双子のライオン堂)。

 ゲンロンカフェのイベント、大森望×松下隆志「社会主義ディストピア、資本主義のユートピア 『われら』光文社古典新訳文庫版刊行記念イベント」(2019年11月7日)に飛び入り出演した際は、様々なディストピア小説のほか、「科学的管理法殺人事件」や『悪魔の飽食』など、社会や企業の抑圧的管理や、人をマルタと呼びモノ扱いして実験材料にした日本軍の非人道性を批判した森村誠一を話題にした。

 また、産経新聞ディストピア作品をとりあげた記事でコメント取材を受けた(2019年9月2日付)。

 コロナ禍に関連しては、感染症フィクションの古典であるカミュ『ペスト』、小松左京復活の日』を評した後、2週連続でラジオ出演してそれぞれの作品について語った(TOKYO FM 「ONE MORNING」2020年4月8日、15日)

 

 格差社会化が進んだ平成史を描いた『Blue』の葉真中顕、来日中のアメリカ大統領に核テロが迫る『オーガ(ニ)ズム』の阿部和重、地球に異星からの危機が迫る劉慈欣『三体』を訳した大森望へのそれぞれのインタヴューを担当し、加えて作品評を執筆。

 

 第二次世界大戦中のドイツでヒトラーを心の友だちとする少年を主人公にした映画『ジョジョ・ラビット』の最後に流れるデヴィッド・ボウイ“ヒーローズ”は、どのような意味を持っているか。あるいは、2019年を舞台にしていた『ブレードランナー』など、かつて映画で描かれた未来が現在となり過去となっていったこと。そうしたテーマの原稿も書いた。

 

 さらに、澤村伊智『ファミリーランド』、米澤穂信『Iの悲劇』、村田沙耶香『変半身』、穂波了『月の落とし子』、テッド・チャン『息吹』、高山羽根子『如何様』、毛利嘉孝バンクシー アート・テロリスト』、古川真人『背高泡立草』、木村友祐『幼な子の聖戦』、宇野常寛『遅いインターネット』、藤井太洋『ワン・モア・ヌーク』、李龍徳『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』、小松左京首都消失』、パオロ・ジョルダーノ『コロナの時代の僕ら』といった作品を書評やブックガイドでとりあげ、下村敦史『フェイク・ボーダー 難民調査官』の文庫解説を担当した。差別、ジェンダー、分断、情報、技術、都市と地方、災厄、グローバリズム、戦争、核など、ディストピアにまつわるモチーフを含む作品に注目してきたのである。

 

 ここに抜き出した『ディストピア・フィクション論』刊行以後の仕事は、いずれも同書とその一つ前の『戦後サブカル年代記 日本人が愛した「終末」と「再生」』の問題意識を受け継いだ形で取り組んできたものだ。2冊は、2001年の3.11のインパクトとその後の日本や世界の社会の変化を意識して書かれた。そして、新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言の直前まで、この国は、原発事故を伴った東日本大震災から復興を掲げた東京2020オリンピックの準備をしていたのである。震災以後とコロナ禍が連続してしまったのであり、終末観やディストピアをめぐる思考を、なおさら止めるわけにはいかなくなってしまった。

 いずれ『戦後サブカル年代記』、『ディストピア・フィクション論』のその後について、新たな本をまとめたいと考えている。

 

 

最近の自分の仕事

-デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」はなぜ普遍的な名曲であり続ける? 映画『ジョジョ・ラビット』から紐解く”英雄”の意味 https://realsound.jp/2020/03/post-518173.html

-星野源、文筆家としての表現は「私」に近い――『蘇える変態』ほか、代表的エッセイを読み解く https://realsound.jp/book/2020/03/post-521249.html

-古川真人『背高泡立草』、TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』、木村友祐『幼な子の聖戦』の紹介 → 「モノマスター」5月号

-カミュ『ペスト』の“予言”と小松左京復活の日』の“警告”ーー感染症を描く古典は“不感症”への予防接種となるか https://realsound.jp/book/2020/03/post-527959.html

-森谷明子『涼子点景1964』書評 → 「ハヤカワミステリマガジン」5月号

-相沢沙呼インタヴュー、「夜明けの紅い音楽箱」(とりあげたのは真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』) → 「ジャーロ」No.71

-メフィスト賞受賞作刊行記念特集 第62回受賞 五十嵐律人『法廷遊戯』の書評、第61回受賞『#柚莉愛とかくれんぼ』真下みこと初めてのインタヴューの聞き手 https://tree-novel.com/works/episode/4061b1c311c24d37b6a1b109cdf47ce3.html →「メフィスト」2020 vol.1

-『復活の日』『首都消失』で再注目 小松左京がシミュレーションした、危機的状況の日本 https://realsound.jp/book/2020/04/post-541314.html

-カミュ『ペスト』、小松左京復活の日』に関するコメントでラジオ出演 → TOKYO FM 「ONE MORNING」4月8日、15日

-李龍徳『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』、藤野可織ピエタとトランジ〈完全版〉』の紹介 → 「小説宝石」5月号 https://www.bookbang.jp/review/article/621282

-紗倉まな『春、死なん』、宇野常寛『遅いインターネット』、藤井太洋『ワン・モア・ヌーク』の紹介 → 「モノマスター」6月号