ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『ポスト・ディストピア論』の章題と小見出し

 

 

『ポスト・ディストピア――逃げ場なき現実を超える想像力』Paradise Lost / Exodus

 

Introduction ディストピアの出入口――『ジョジョ・ラビット』「ヒーローズ」

 

Chapeter 1. パンデミック/汚染 Pandemic / Pollution

1警告と預言――『ペストの記憶』『ペスト』『復活の日

  確率を生きる

  デフォーとカミュの隔離観察

  疫病と戦争

  労働の格差、『首都消失』と地方の浮上

  インフォデミックの今昔

  不条理にさらされる子ども

  言葉の伝染

2穢れとの共生――マンガ・映画・歌舞伎『風の谷のナウシカ

  歌舞伎版と技術のモチーフ

  生き物をケアしケアされるナウシカ

  裏表の穢れと清浄

  無限遠点とプログラミング

 

Chapter 2. 統治/分断 Governance / Division

1パラレル・ワールドの日本――『R帝国』『オーガ(ニ)ズム』『ブラック・チェンバー・ミュージック』

  資本主義の終わり、世界の終わり

  日本の南北とアメリカの南北戦争

  天皇、子ども、ヒーロー

  村上龍阿部和重の『地獄の黙示録

  マクガフィンパノプティコン

2収容所のロミオ――『Q:A Night At The Kabuki』

  『ロミオとジュリエット』+『平家物語

  無名戦士への届かない手紙

  分断とアイデンティティ

3多様性における天災――『日本沈没2020』『日本沈没 希望のひと』

  未来の予測と過去の記録

  生き延びるのは本当の幸せか

  〝日本すごい〟のファンタジー

 

Chapter 3. 情報/監視/記憶 Information/Surveillance/Memory

1奪われる言葉――『日没』『新聞記者』

  それぞれの「正義」

  権力の悪魔化と公共の理想化

2楽しい管理――『ユートロニカのこちら側』『透明性』

  独裁でも番組でもないカメラの日

  決定と自由のダブルバインド

  シナリオの谷間

  不自由がなければ自由もない

忘却という幸福――『白の闇』『見ること』『忘れられた巨人』『密やかな結晶』

  「わたしたちは目が見えない」

  喪失感の欠落

  監視・記録と記憶・忘却

  楽に流される

  小説という希望

  とらえどころのない白票

 

Chapter 4. ジェンダー/声  Gender/Voice

1女たちの奪われた声――『声の物語』『眠れる美女たち』『パワー』

  男が支配する女の言葉

  アダム不在のエデンの園

  男女の地位が逆転した国家

  歴史の始原という標的

2アイドルの反抗と従属――『持続可能な魂の利用』、欅坂46

  「おじさん」と少女の分離

  挫折した計画のパラレル・ワールド

3最優先課題としての出産――『大奥』『侍女の物語』『誓願』 55

  男女二分法に収まらない揺らぎ

  出産の道具化する男女

  歴史改変で歴史踏襲の物語

  新たな家族観

  置き換え可能な男女

 

Chapter 5. 身体/生命 Body/Life

1独裁者としての子ども――『トイ・ストーリー』シリーズ

  オモチャのディストピア

  モノであるキャラクターの声

  ゴミとオモチャの境界線

  楽園追放の合理化

2人間とAIの距離――『クララとお日さま』『恋するアダム』『本心』

  人間関係に介入するAIロボット

  ネット接続と内的衝動

  死者復活と伴侶

  アバターという抜け穴

  心の持ちようから逃げられるか

3生命のサイクルの未来 ――『ミッドサマー』『夏物語』

  息づかいの同調圧力

  SFではなく現実のディストピア

 

Chapter6. 脱出/追放/独立 Escape/Expulsion/Independence

1子どもの出入口――『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締り』

  余裕のない現在の子どもが未来の鍵を握る

  伝統の巫女と偶発の巫女

  圧倒的な力と限られた出入口

  過去と未来の和解

2脱出の挫折――『治療塔』『治療塔惑星』

  SF未満の二部作の現代性

  戦後文学としての未来小説

  地球=資本主義の外部に出られない

  超越的存在との交信

  新しい人は眼ざめるか

  挫折してもなお外部を希求する

3移動を生きる――『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』『太陽諸島』

  メタ言語によるユートピア

  プロセスの途中

  家船というユートピア

 

Postscript すぐ先の希望と「壁」のむこうの希望――「ADELHEID」

 

 

最近の自分の仕事

-『SF超大作「三体」をより楽しむために! 物語を追いやすくなる6つのポイントを解説 https://realsound.jp/movie/2023/12/post-1511558.html

-19冊のレビュー → 探偵小説研究会編著『本格ミステリ・エターナル300』

-「ベスト本格ミステリ21世紀」 → 探偵小説研究会編『妄想アンソロジー式ミステリガイド』

 

 

 

『ポスト・ディストピア論』プレイリスト

https://open.spotify.com/playlist/01rky7tupsZvU6SBeMPF7v?si=4bef644d9bac4276

『ポスト・ディストピア論』執筆中によく聴いていた曲のプレイリスト

1 Eathcry“Post Dystopia” そのものズバリの曲名。

2 David Bowie””Heroes”/”Helden”” 映画『ジョジョ・ラビット』エンディングで流れる。

3 Anna Prohaska,Julius Drake”La chanson d’Eve,Op.95:I.Paradis” 「失楽園」をテーマにしたアルバム『Paradise Lost』からフォーレ「楽園 イヴの歌」

4 Teo Macero”Cloud To Paradise” 映画『復活の日』使用音楽の変奏

5 Gil Melle”Andromeda” 映画『アンドロメダ』テーマ

6 Ernest Gold”On the Beach Main Title“ 映画『渚にて』テーマ

7 久石譲腐海にて” 映画『風の谷のナウシカ』から

8 Simon & Garfunkel”America” 小説『オーガ(ニ)ズム』で引用

9 Queen”Love Of My Life” 舞台『Q:A Night At The  Kabuki』で使用

10 牛尾憲輔“rising suns,again” アニメ『日本沈没2020』から

11 菅野祐悟日本沈没-希望のひと-” ドラマ『日本沈没-希望のひと-』から

12 岩代太郎“Where Truth Is” 映画『新聞記者』から

13 Utaki”Drama 3” 映画『ブラインドネス』から

14 Burkhard Dallwitz”It’s a Life” 映画『トゥルーマン・ショー』から

15 欅坂46サイレントマジョリティー”

16 KOHTA YAMAMOTO“大奥 THE STORIES” ドラマ『大奥』から

17 Blondie,Philip Glass”Heart Of Glass(Crabtree Remix)” ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』で流れたヴァージョン

18 Kate Bush”Running Up That Hill(A Deal With God) 男女の心や体を神との取引で交換することを主題にした歌。

19 Randy Newman“You’ve Got a Friend in Me” 映画『トイ・ストーリー』から

20 Anthony Willis“Life & Death(Suit from M3GAN)” 映画『ミーガン』から

21 Bobby Kric”Ritual In Transfigured Time” 映画『ミッドサマー』から

22 RADWIMPS,三浦透子“グランドエスケープ” 映画『天気の子』から

23 RADWIMPS,十明“すずめ” 映画『すずめの戸締まり』から

24 大江光,海老彰子“広島のレクイエム” 大江健三郎長男の作品

25 Re-TROS”THREE-BODY-《三體》 ドラマ『三体』から

26 三宅純“Reminiscence of Neurons” 宝塚歌劇団宙組『FLYING SAPA-フライング・サパ-』提供曲

27 Elmer Bernstein”The Exodus” 映画『十戒』から

28 坂本龍一PARADISE LOST

29 XOXO EXTREME”ADELHEID“ プログレッシブ・アイドルの曲

チバユウスケの訃報

 ミッシェルガンエレファントのラストライヴを幕張メッセで観た時、近くに小さな男の子を連れたグループがいたのを覚えている。大人たちで囲んでスペースを作ったところで、その子が踊るというかはしゃいでいたり、肩車で揺すってもらってキャッキャしたり、彼もライブ空間を楽しめていたようだった。20年前のことだからもう大人になったはずだけど、まだミッシェル聴いているかな。たまに聴いていたらいいな、と思った今日であった。

 

 サマソニで観たThe Birthdayはカッコよかった。でも、コロナ禍突入前のことだったから、あれからも時が過ぎてしまったのだな。容赦なく時は過ぎるな。

 

 自分が、過去に何かの形で原稿に書いた人たちが、これほど多く逝ってしまう年はなかったと思う。そういう年齢になっているというわけなのだけど、今日も、やはりかつて作品についてことのある故人について書いている最中にチバの訃報を知ったのだった。

「過去に何かの形で原稿に書いた」ということは、その人について集中して考えた時間があったということ。とはいえ今、当時のすべてを覚えているわけではないから、訃報を知ると、不完全な形で記憶が蘇り、くらくらしてしまう。忘れたことがある、ということにもショックを覚える。

 

 

最近の自分の仕事

-〈アフタートーク 著者×担当編集者〉第12回・特別編「『鵼の碑』京極夏彦(作家)×栗城浩美講談社)×坂野公一(装幀家)」の聞き手・構成 → 「ジャーロ」No.91

はっぴいえんどの時代、坂本龍一、櫻井敦司

 

 

 はっぴいえんどの活動期間と同時代の文学の動向を、はっぴいえんどファースト・アルバムの謝辞に名前があった人物を押さえつつふり返るというコラムを書いた。以前、1970年代後半論を書きたいと表明したけど、この短文は1960年代末~1970年代前半整理なのだった

 

「OTONANO」2023年11月号 特集 はっぴいえんどURCレコード コラム~はっぴいえんどの時代(1963~1973)|第1回:文学 https://otonanoweb.jp/s/magazine/diary/detail/9091?ima=5100&cd=feature

 

 後に細野晴臣の言葉を引用しエッセイ「リズム・メロディ・コンセプト」を書いた柄谷行人が、この時期、1969年に「<意識>と〈自然〉-漱石試論」で第12回群像新人文学賞評論部門を受賞して批評家デビューしているが、上記の原稿では触れる余裕がなかった。柄谷は、大瀧詠一「分母分子論」に言及したこともあった。

 

 

 一方、「ユリイカ」2023年12月臨時増刊号 総特集=坂本龍一 1952-2023 には「YMOの/と坂本龍一――「環境」と歴史、切断と継承の間で」という文章を書いた。ふり返ってみて、自分が興味を持って素直に聴けたのは『BEAUTY』までで、以後は複雑な感情を抱かざるをえないままだったと、あらためて確認した。

 

 

最近の自分の仕事

-京極夏彦、17年ぶり百鬼夜行シリーズ『鵼の碑』は破格の作品だ――じわじわと不安を持続させる832頁 https://realsound.jp/book/2023/09/post-1435956.html

-神永学『ラザロの迷宮』、夕木春央『十戒』の紹介 → 「小説宝石」10月号

-石持浅海『あなたには、殺せません』のレビュー → 「ミステリマガジン」11月号

-「アフタートーク 著者×担当編集者 第11回 『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』青柳碧人(作家)×秋元英之(双葉社)(聞き手・構成)

-伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』書評 → 「週刊現代」10月14日号

-第27回日本ミステリー文学大賞新人賞 予選委員コメント https://kobun.or.jp/mistery_new/prize27/

-佐藤究、三島由紀夫に挑んだ新作長編『幽玄F』を語る 「重視したのは、死の享楽や美を持たせないこと」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/10/post-1462868.html

 

 

 20年以上前に私が勤めていた業界誌には、社内でレイアウトを担当しつつ、アフター5には商業BLコミック誌の編集をしているという猛者がいた。いつも黒装束で出勤していたその人は、趣味で櫻井敦司を題材にした個人同人誌を作っていて、私も数冊もらった。彼女からは、BUCK-TICKのライヴヴィデオとか原形とどめないリミックス集とか借りた。私もBUCK-TICKにハマっていたのだった。今、どうしているのか知らないけれど、この文章は彼女のようなファンの存在を意識しつつ書いた。

-「狂う」「原罪」「孤独」……BUCK-TICK櫻井敦司が多用した言葉 三島由紀夫京極夏彦、小説家からの影響 https://realsound.jp/book/2023/10/post-1474897.html

「本の雑誌」10月号 書評家座談会

本の雑誌」10月号の「特集 この人の本の紹介が好き!」の書評家座談会「サバイバルより分業制だ!」(大森望、倉本さおり、杉江松恋)を読む。仕事の種類とその収入の割合についてなど、なかなか生々しくも切実な話をしている。特に次の部分↓

 

――でも読むのが好きで人に薦めるのが好きで、この仕事を始めたわけですよね。それをメインでやってるってすごく幸せなことだと思うのですが。

倉 好きで読んでるんだけど、私たちにも生活というものがあるじゃないですか。というか本の雑誌社さんがそれを言うのはなかなかに鬼畜みがないですか(笑)。

 

本の雑誌」の新刊めったくたガイド(←私も以前担当した)のように冊数を読んで書くのが、原稿料的に一番わりにあわないという話を大森氏がした後、このやりとりになるのだから、鬼畜という言葉が出るのもうなずける(笑 ← 一応、この字を入れておこう)。倉本氏に激しく同意する。私にだって生活はあるんだ。

 

 

 

重松清『カモナマイハウス』

最近の自分の仕事

-重松清が考える、空き家問題と定年後のオヤジの生き方「自分を見ていても、アップデートできていない部分がいっぱいある」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/09/post-1427466.html

 新刊『カモナマイハウス』に関する上記インタビューを担当した。私は今年、父の死後に要介護老人ホームで過ごしていた母が亡くなり、空き家状態になっていた実家を処分したので、介護ロスや空き家ビジネスを題材にした同作には、いろいろ感じるものがあった。

 

 重松清『カモナマイハウス』には、「持続可能なオヤジをつくる」というフレーズが登場する。そういえば、松田青子『持続可能な魂の利用』(2020年)には、この国から「おじさん」が消えることで、女性たちの「魂」が「持続可能」になる幻想の未来が描かれていた。二作をあわせ読むと、この国の「おじさん」的なるものが立体的に浮かび上がる気も。

 

 あと、ネタバレになるからなぜそう考えたか書けないのだけれど、『御伽の国のみくる』という小説を書いたモモコグミカンパニーが『カモナマイハウス』を読んだらどう感じるのだろう? と思った。両作には比較的近い属性を持つ人物が登場するし、彼らをアラ還世代、若い世代それぞれの書き手の視点からとらえたような部分がある。この対比も個人的に興味深かった。

 

栗本薫『真夜中の天使』

 私もそうだが、ジャニーズ事務所の性加害の件で、栗本薫『真夜中の天使』を思い出した人がけっこういるようだ。1970年代に執筆された同作のように、ひょっとすると芸能界はそういうところなのではないか、という半信半疑の想像は、それ以前から世間にあったと思う。

 この小説は、沢田研二主演ドラマ『悪魔のようなあいつ』を、栗本が繰り返し二次創作しているうちに元の話から離れていったものだという。私は、1982年に文庫化されてすぐの頃に読んだけれど、今でいうBL小説に触れるのは初めてだったし、インパクトはあった。当時、すでに竹宮恵子萩尾望都などの少年愛ものの少女マンガは読んでいたものの、小説ならではのエグイ描写もあったから。

 ただ今回、久しぶりに「マヨテン」を思い出したけれど、主人公・今西良の愛称が「ジョニー」だったことは、すっかり忘れていた。よりによって「ジョニー」なのか……。

 

 

 

おまけの雑記

 

SFマガジン」10月号の「特集 SFをつくる新しい力」。10~20代SF読者アンケートの「好きなSF作家」上位30人には、星新一筒井康隆は入っていても小松左京は入っていない。わかる気がする。

 

ミュージカル『ムーラン・ルージュ』。ストーンズの“悪魔を憐れむ歌”、“無情の世界”、“ギミー・シェルター”を混ぜあわせた場面など典型的だが、洋楽有名曲の小刻みなパッチワークが、音楽面での面白さの1つになっている。でも、日本語版の歌詞は原曲の抑揚、聴き心地の快さを減じていると思う。もう少し言葉を選んで詞を練れなかったものか。

 

 

ミュージカル『ファントム』で容姿が醜いゆえに虐げられた主人公が、詩人ウィリアム・ブレイクを「心の代弁者」と呼ぶのは、大江健三郎が『新しい人よ眼ざめよ』など障害を持つ息子を主題にした連作でブレイクを頻繁に引くのと通ずる。両者ともブレイク『無垢の歌』を引用している。

 

 

最近の自分の仕事

-長浦京『アンリアル』、速水健朗『1979年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』の書評 → 「小説宝石」8月号