ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

ビースティ・ボーイズ《トゥ・ザ・5ボローズ》、NY、キング・コング

トゥ・ザ・5ボローズ / TO THE 5 BOROUGHS (CCCD)
ビースティ・ボーイズの6年ぶりの新譜は、僕が期待していたものとは、ちょっと違っていた。
ブラック・ミュージックの文脈以外にも開かれていて、“俺さま節”的なマッチョ主義でもないものとしてヒップホップを鳴らす――ビースティは、そのようなタイプのヒップホップの先駆者だった。彼らはヒップホップ・ユニットであると同時にパンク・バンドであり、そのことが90年代前半にはオルタナ・ムーヴメントとリンクすることになった。また、彼らが運営していたレーベル=グランドロイヤルは、面白いミュージシャンたちを世に紹介してくれた(バッファロー・ドーターとかマニー・マークとか、好きです)。ビースティはそんな風にストリート・カルチャーの発信基地になる一方、チベタン・フリーダム・コンサートなどで政治的主張を打ち出しもした。あの3MCは、さまざまな広がりを持った活動ぶりを誇示していたし、僕が彼らに期待するのもとにかく「広がり」だったのだ。
ところが、《トゥ・ザ・5ボローズ》は、これまでさんざん広げてきた風呂敷をたたむみたいな内容である。パンク・バンドの部分やモンド的な音響遊びは封印し、オールド・スクール的なヒップホップに集中。ミクスチャー感覚は後退し、ストレートなのである。グランドロイヤルは2001年に閉鎖してしまったし、チベタン〜は地道に続けてはきたが状況が劇的に変化することにはなっていない。つまり、以前のようには「広がり」の勢いを作っていけないビースティが、もう一度足場固めをしたアルバムって印象なのだ、新譜は。
以前からかすれ気味だったMCAの声は、ここでは少し聞きづらいくらいになっている。マイクDとアドロックは相変わらず“ボーイズ”な雰囲気だけど、MCAの声を聞くと年輪を感じずにいられない。アルバム・リリースの間隔が6年にもなってしまったのは時間がたちすぎだ。
《ザ・5ボローズ》はニューヨークを意味しており、日本盤の宣伝文句は〔ヒップホップ生誕の地NYCへ〕。この「地域限定」イメージも「広がり」感を薄めているのだが、彼らとしては2001.9.11以後のこの街に関するアルバムを作らざるをえなかったのだ、ってことは理解できる。ヒップホップという機動的なスタイルを考えれば、(9.11後のブッシュ政策に反発した曲をすばやくネット配信はしたけれど)やはりアルバム制作まで時間がかかりすぎだと言いたくなる。とはいえ、3MCのNYに対する思い、NYと世界の関係に関する思いは真摯に定着されている。その意味では、聞きごたえのある作品だ。


ジャケットには、世界貿易センタービルのツインタワーも描かれたNYの線描画が選ばれている。それが線描画であることでNYの「脆さ」の暗示にもなっており、なかなか秀逸なジャケットだと思ったが、貿易センタービルで思い出したことがある。1933年制作の映画『キング・コング』では、コングがエンパイア・ステート・ビルに登り、最後は複葉機に銃撃されて墜死した。で、76年のリメイク版(ジェシカ・ラング主演)の時には、コングは貿易センタービルに登ったのだった。
美女と野獣」的な要素を脇にのけると、キング・コングとは現代化されていない地域、未開、非資本主義圏――つまり非アメリカの象徴で、それがアメリカ=現代の象徴である飛行機によって抹殺される図式である。ところが、9.11では非アメリカの代表であるアルカイダが、飛行機を操りツインタワーに突っ込んだ。そうみるとあのテロは、現代化されたキング・コングが飛行機に乗ってNYを再訪したみたいなものだったわけだ。

  • 最近活字になった文章
    • 「時代を越えるロックのアイコン 共通語としての〈ウォーク・ディス・ウェイ〉」「〈ホンキン・オン・ボーボゥ〉 iPod時代のブルース・アルバム」など → 『エアロスミス・ファイル』 ISBN:4401618777
    • ミステリ関係のほんの少々の項目 → 『日本現代小説大事典』 ISBN:4625603021

  • 夕べの献立
    • 揚げもの――ひき肉&タマネギみじん切りに、塩、コショウしてこね、ナツメグで香りづけ。それをピーマンに詰めたり、ナスにはさんだり、アスパラに巻きつけたり、肉団子にしたりして片栗粉をはたき、サラダ油で揚げる。ケチャップ+ソース+しょうゆ+和がらしでタレ。
    • ポテトサラダ――マッシュポテトに、塩もみしたキュウリ、ゆでたニンジン、レンジでチンしたタマネギ、ハムをまぜ、塩、こしょう、マヨネーズ、ナツメグで味&香りづけ。
    • もやしをレンジでチン。そこに市販のポン酢。