ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

エアロスミス、7.20東京ドーム公演

演奏曲目 TOYS IN THE ATTIC / LOVE IN AN ELEVATOR / ROAD RUNNER / BACK IN THE SADDLE / THE OTHER SIDE / CRYIN’ / JADED / NEVER LOVED A GIRL / RAG DOLL / BACK BACK TRAIN / STOP MESSIN’ AROUND / LAST CHILD / MILK COW BLUES / DREAM ON / DRAW THE LINE / BABY,PLEASE DON’T GO / MOTHER POPCORN / WALK THIS WAY / SWEET EMOTION
アンコール I DON’T WANT TO MISS A THING / TRAIN KEPT A ROLLIN’


バスドラムにはカタカナで「ホンキン」、スティーヴン・タイラーの左肩には漢字で「帰京」と書いてあった。
大阪公演でスティーヴンが花道から転落し、広島公演は中止になったと聞いていたから、大丈夫かよと心配していた。右ひざ靭帯を損傷したというスティーヴンは、いつもより動きが鈍い。ステージの右へ左へ、エプロン・ステージへとまめに立ち位置は変えるけれど、走らない。足どりがあぶなっかしい時だってあったし、合間合間で後ろ向きになって休むことが目立つ。声もところどころかれていた。音響のバランスだってよいとはいいがたく、ジョー・ペリーのギターが「ハウってるだけじゃん」みたいなシーンもあった。状態良好なライヴではなかったのである。
でも、だからこそバンドの底力が感じられた。不安定なフロント二人に対し、ブラッド・ウィットフォードとトム・ハミルトンのプレイは堅実そのもので、バンドの演奏を実質的に支えているのはこの二人だと再認識した。また、スティーヴンやジョーに「お前、テンポ遅いぞ、コラ」みたいな態度をとられることの多いジョーイ・クレイマーは、今回も叱られてるみたいな場面があったが、かなりの頑張りを見せていた。スネアとシンバル・ワークのコンビネーションなどをみていると、やっぱりエアロのドラマーは彼しかいないと思った。
そして、スティーヴンは体調不良なのに、空中ブランコみたいにステージ外にぶら下がる趣向を意地でこなし(ほんの短い間だけど)、スティーヴンの動きに制約があるぶん、ジョーは恒例のオーヴァー・アクション・コーナー(笑)に力を入れていたようだった。
全体として、苦境をバンドの総合力で乗り切った印象である。スティーヴンがせかせか動き回らなくてもちゃんと間が持って、ステージが「絵」として立派に成立したのは、長く活動してきたバンド特有のオーラ、大物感ゆえだろう。しかし、状態が悪いために一生懸命にならざるをえない局面でもあった。なので、ベテラン・バンドならではの余裕と必死さとが入り混じった独特な空気になった。
ブルース・カヴァー集《ホンキン・オン・ボーボゥ》発表に伴うツアーということで、〈トレイン・ケプト・ア・ローリン〉、〈ミルク・カウ・ブルース〉など過去のカヴァー曲も演奏。オリジナル・ナンバーにしても〈バック・イン・ザ・サドル〉、〈ラスト・チャイルド〉、〈ラグドール〉などいかにもエアロ的なグルーヴの曲が多く選ばれていた(別の日にやった〈ワン・ウェイ・ストリート〉が聞けなかったのはちょっと残念)。選曲は日替わりだが、80年代以降の「ヒット・ポップス」的な曲は最小限におさえ、ブルース・ロックからの影響に始まるエアロ・サウンドのコアな部分を前面に出すことで、このツアーは一貫しているようだ。
80年代に復活して以降のエアロのライヴに関しては、そのエンタテイメントぶりに「パッケージ化されすぎだ」との批判もあったわけだが、ザックリとコアなサウンドで迫るこのツアーはおもむきが違う。特に今回の日本公演は、パッケージからはみ出たアクシデントがあったのだからなおさらだろう。
振り返れば、僕がはじめてエアロスミスの存在を知ったのは、「聞いて」ではなく「読んで」だった。それも活字ではない。中学の同級生で隣の席に座っていたY子の自筆の文章によってエアロを知ったのだった。当時、僕はクラスメイトに小説やエッセイを書かせて、その原稿用紙を集めて綴じて回覧するなんてことをしていた。その回覧誌にY子が書いてきたのが、お兄ちゃんと行ったエアロスミスのライヴ・リポートだった。それから何年かたち、僕自身がロックを、そしてエアロを聞くようになってから、彼女がリポートしていたのは初来日公演だったとバンド年表で確認した。
興奮を思いっきり鉛筆にこめたみたいな、とても筆圧の高い、右肩上がりのやたら鋭角的な文字。そのかすれぐあいから、えらいスピードで書いたんだろうなと想像できる文章。――今回のエアロのプレイから、あのY子の字を思い出した。うーん、今思えば、あの文字の書きっぷりは、まるでジョー・ペリーのプレイのようだった気がしてくるな。
エアロスミス・ファイル (Artist file (08))