ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

滝本竜彦と大槻ケンヂ

上記コラムでは、ジャパニーズ・ロック雑誌に掲載されるんだからもっと触れておきたいと思いつつ、400字づめで2枚ちょっとの小スペースのためほとんど記せなかったことがあった。なので、ここに書きとめておこう。滝本竜彦への大槻ケンヂの影響についてである。
滝本のデビュー作『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』を文庫版で読み返し、あらためてオーケン大江健三郎のことではなく大槻ケンヂのことです、当然)的な言い回しや語調が多く登場することを再確認した。また文体だけでなく、シチュエーションやイメージの面でも、オーケン的なものの影は少なからずある。なんだかわからないけどとにかく攻めてくるチェーンソー男について、主人公の山本陽介は〔だからチェーンソー男は死なないんだ。だって首がないんだから。〕と考える。これなんかは、大槻がかつて率いていたバンド=筋肉少女帯の〈風車男ルリヲ〉で〔首がないんだ〕を決め科白にしていたことを思い出させる。また全体的にみても、滝本が小説を書き始めるうえで、『新興宗教オモイデ教』からはじまる一連の“不条理+青春”タイプの大槻小説を念頭においていたことは想像できる。それと、大槻のもう一つの系統である“とほほ&のほほん青春小説”のミックスだわな(戦闘美少女の設定は、美少女ゲームKanon』からいただいたんだろうけど)。
実際、滝本竜彦オーケンから影響を受け文体を意識していたことをインタビューなどでたびたび語っているし、大槻本人と対談したこともあるという(僕は未読)。逆に「ダ・ヴィンチ」2004年1月号のインタビューで大槻は、気になる1冊として『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』をあげて絶賛しており、記事には滝本とはメル友だと記されていた。さらに滝本は、同誌8月号の「私にも小説が書けますか?」特集のデビュー作執筆時を振り返るインタビューで、初期には大槻の真似をしたとまた語っていた(『チェーンソーエッヂ』の「ヂ」って、ケンヂの「ヂ」を意識した大槻リスペクトだったのかしら?)。
その「ダ・ヴィンチ」8月号には、『ロッキン・ホース・バレリーナ』(不条理系ではない青春小説)刊行にあわせた大槻インタビューが掲載される一方、滝本は上記インタビュー以外に、乙一大岩ケンヂ(また「ヂ」だわ)との座談会にも登場している。この座談会は、滝本の『ネガティブハッピー〜』文庫化、『NHKにようこそ』の大岩によるコミック化にあわせ、角川書店が「ネガティブキャンペーン」と題したキャンペーンを組んだことを背景にした企画。大岩が乙一の『GOTH』もコミック化しているため、乙一の小説諸作まで同キャンペーンの対象になっているのだ。しばらく前の別冊「文藝春秋」に2号連続で掲載された滝本×乙一対談は、キノコだケミカルだって内容で、期待の若手作家たちにこんなこと語らせてよいのでしょうか? というあぶなげなとこが面白かった。それに比べると、今回の「ダ・ヴィンチ」座談会は、ゲームやラノベからの影響などについて語りあった比較的穏当な内容。
その座談会のタイトルが、「僕らは青春を内向きに消費したのか?」となっている。実に滝本向きのタイトルだと思うが、考えてみれば一昔前の大槻のインタビューでわりとこんなタイプの見出しがつけられがちではなかったか? って気がした。1989年に幼女連続殺害事件が大騒ぎになった頃からの数年間、大槻は“おたく的な精神性を持つ若者のサンプル”、“青春のダメな側面の代表”みたいな扱いで取材を受け、そのことをむしろ自分の喋りや文筆に取り込んで芸風にした(というか、もともとそんな芸風だからそんな取材がきたのであった)。彼はインタビューにおいて、ぼくの頭のなかの夢想では少女ばかりの住む国の大河ドラマが延々と続いているんです、なんてことを話したりしていた(筋少にはブライアン・メイ風ギター・オーケストレーションで彩られた〈少女の王国〉って曲もあった)。90年頃のことで、架空の少女王国に関する絵や物語を描いたアウトサイダー・アーティストヘンリー・ダーガーがポピュラーになる以前、滝本竜彦が『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ脳内彼女にするよりも前の話である。
――てなことをあれこれ連想して「ダ・ヴィンチ」8月号の記事の分布を見直したら、“若者のサンプル”から“ものわかりのいいお兄さん”へとスタンスを移した大槻の後釜的な役回りが、滝本たちにめぐってきたのだな、と思えてきた。
そういえば、滝本の脳内彼女になった綾波レイのキャラクター造形では、「包帯で真っ白な少女」について大槻が歌った筋少プログレ風な名曲〈何処へでも行ける切手〉が、ヒントの一つになっていたのだったね(詞だけなら、大槻の歌詞集『花火』で読めます)。

関連雑記 http://d.hatena.ne.jp/ending/20040903

花火 (ダ・ヴィンチ・ブックス)

花火 (ダ・ヴィンチ・ブックス)