ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「ファミレス」という言葉(恩田陸『ユージニア』)

上記インタヴューをした際、ケイト・ブッシュのファンでもある『ライオンハートISBN:4101234159ASIN:B000BDJ610、「ニューアルバムが出るらしいですよ」と伝えたら驚いていた。なにしろ、12年ぶりだもんなぁ。

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ところで、恩田陸『ユージニア』ISBN:404873573X、そうかもねぇ、と感じる部分があった。ある章の語り手が、「ファミレス」という言葉について、こんなことを述べるんである。

本当はファミリーレストランの略なんだろうし、頭では分かってるんだけど、俺はいつもファミリーレス、つまり家族がない、って言葉を連想しちゃうんだな。そう、セックスレスなんかと同じ用法ね。

そして彼は、普通の家族がそろって来る時間帯は限られていて、むしろ広いテーブルを仕事場替わりにしたり打ち合わせ場所にするなどのビジネス目的の利用が多く、夜遅い時間は一人客や学生、あるいは誰かが欠けてるような家族がほとんどだと自分の観察を披露する。
家庭の機能を分解して「食事」の部分だけ抜き出したのがファミレスだけど、その結果、ファミリー向けという建前とは逆に、家族から分解された状態の人たちをひきつけてしまうということか。
こうした店内風景は、独身者向けってイメージが一般的であるコンビニに、「ファミリーマート」と名乗るチェーンが存在する皮肉と裏腹な気がする。で、「ファミマ」のキャッチフレーズは〔あなたと、コンビに、〕であって、個人相手というニュアンスを打ち出している。“あなたたち”とコンビニ、ではないんである。ファミリーで来てください、というより、当店があなたに対してファミリーの機能の一部を代行しますって商売。
そう考えればファミリーレストランも、ファミリー向けという以上にファミリー代行の性格が強い。ぶっちゃけ家族一般が仲良くしてるより壊れてくれたほうが、「食事」というファミリー機能代行商売のプラスになりそうなわけだし。
語り手の彼は、夜の店内を念頭に言っていた。

ファミレスのお客って、笑わないのね。

『ユージニア』は、名家における米寿の祝いの席で起きた大量毒殺事件をめぐる物語だった。悪意を描いたこの小説の不気味さは、こうした観察の積み重ねから生じている。