ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

切通理作『失恋論』

失恋論
切通理作の著書を読むのは久しぶり。自身の失恋体験の回想を軸に、失恋の考察、失恋に関連する作品の紹介を組み合わせた本。まぁ、こういうものを読むと、当然、自分の体験を思い出したりするわけですが、ここには書きません。ええ、書いたりしませんとも。
“論”と呼ぶには、グズグズな展開になっている。失恋を回想するうちに、感情がたかぶったりしちゃったんだろうなぁ、と想像される。そのぶん、生身のリアリティは伝わってくる。理路整然と冷静に失恋を語られちゃっても、逆にそんなもん、信用できないわけだし。
章の終りごとに「失恋図書館」というコーナーが挿入され、本書のテーマと関係のある小説・映画・マンガ・ドラマなどへの論評が並ぶ。切通らしく特撮映画を取り上げたかと思えば、硬めの評論にも言及するといったぐあいに、ヴァラエティをもたせている。
ところが、第四章の最後では、魚喃キリコの作品ばかり並んでいて、なんだかえらくバランスを欠いている。この「失恋図書館4」の通しタイトルは「お姫様はどこへ行った?編――もう少し好きでいさせて欲しい七本」となっている。
そして、直後の第五章では、切通本人が「もう少し好きでいさせて欲しい」と思っていた女性に向けて書いた、でも出さなかった、長ったらしくも女々しく情けないメールが紹介されている。この文章が、なんとも読んでいて、いたたまれない……。自分はこんな文面、金輪際書いたことがない! と言えない僕であるだけに……。ええ、言えませんとも。
ということは、つまり、切通の「もう少し好きでいさせて欲しい」相手への行き場のない執着心が、直前の「失恋図書館4」では、魚喃キリコへの執着へと姿を変え発散されていたのだな、と思いました。ここらへんの、グズグズ加減に、かえって好感を持ちました(って、同病相憐れむ?)。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20051125#p