ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

歌舞伎座「南総里見八犬伝」

曲亭馬琴原作/渥美清太郎脚色
坂東三津五郎網干左母二郎、犬山道節)/中村福助(犬坂毛野)/市川染五郎(犬塚信乃)/中村扇雀(伏姫、山下定包)/片岡孝太郎(浜路)


先週22日、歌舞伎座でこの演目を見た。怪異あり、屋根の上のチャンバラあり、女形の踊りありの娯楽作。あの長大な『八犬伝』のダイジェストであり、いろいろ刈り込んであるため深みはないが、サービスは満点だった。
話の刈り込みでいうと、本来は里見義実に殺された玉梓の怨霊が、物語全体に影を落とすはず。しかし、この脚色に彼女は出てこない。義実の飼い犬・八房に首をとられた安西景連が祟る設定になっている。憑くのが女か男かで、かなり印象は違う(景連と対照的にするためだろう。里見を守る側の洲崎明神の使者は、仙女と設定されている)。
また、この歌舞伎ヴァージョンでは、原作では発端の悪役にとどまる山下定包が、全体の悪役になっている(原作では扇谷定正にあたるポジション)。


千葉県民の僕は小学生の頃、千葉県を重要な舞台とする『八犬伝』が大好きだったが、同じ本を繰り返し読むことはしなかった。子ども向き、現代語訳でいろいろ出ていた『八犬伝』を読み比べ、そのヴァージョン違いぶりを楽しんでいた。
例えば、山林房八の息子が犬江親兵衛であるのが本当なのに、房八=親兵衛にして話を手っ取り早くまとめている――なんてのは、まだ穏当なはしょりかた。発端部分の伏姫−八房の話しか書かず、八犬士を一切登場させないまま終わる『八犬伝』を読んだ時には、その大胆すぎる編集ぶりにひっくり返った(子どもの目にはあまりにもいやらしくアレンジされた山田風太郎忍法八犬伝』にも、びっくりだった)。
また『八犬伝』は、『水滸伝』の大筋を借りたうえ、中国の小説や歌舞伎などからいろいろ趣向を引用している。この方法論自体を使って作られたのが、NHK人形劇『新八犬伝』であり、この番組では馬琴のほかの作品『椿説弓張月』、『俊寛僧都夢物語』などからのエピソードも混ぜ込んでいた。
振り返ってみれば、(当時そんな言葉は知らなかったが)リミックス、サンプリングする感覚の面白さを僕にはじめて教えてくれたのが、一連の『八犬伝』たちなのだった。
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ところで、染五郎は舞台での姿勢がいまひとつ決まっていない気がした。踊りの名手、三津五郎の立ち姿がきれいなので、染五郎が見劣りしてしまう面はあるけれど……。

  • 28日夜の献立
    • さんま(大根おろし、しょうゆ)
    • キャベツとコーン(ポン酢)
    • 玉ねぎと小松菜の味噌汁
    • 玄米で赤飯
    • なし