ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「小説トリッパー」アイドル特集+本日の『あまちゃん』からの雑感

小説トリッパー」の「特集 アイドルの未来、未来のアイドル」は、読みごたえがあった。書き原稿2本+いずれも柴那典がインタビュアーを務めたインタビュー3本、どれも興味深い内容だった。
その読後のいきあたりばったりな連想を走り書き。

中森明夫「午前32時の能年玲奈

この分野の第一人者らしく、1970年代のキャンディーズピンク・レディーから現在のAKB48、『あまちゃん』までアイドル史を見事にまとめている。震災後のフラガールを『フラガール』主演の蒼井優が励ました件とAKBの被災地訪問、また『フラガール』と『あまちゃん』がともに“母−娘”の文化継承をテーマにしている点など、同型性の指摘にうなずく。
この評論のなかで中森は、上戸彩に代表されるアイドル女優が活躍したゼロ年代から、AKB48、ももいろクローバーZなどグループ・アイドル全盛への現在へと、近年の時代推移を整理している。
一方、本日放送の『あまちゃん』では、アイドル志望だった春子(=小泉今日子)の84〜85年を回想するにあたり、プロ意識(・志向)のアイドル歌手(予備軍)と素人っぽい集団のおニャン子クラブを対照的な存在として描いた。このうち、前者のプロ意識に関しては、82年組(同年デビューの小泉今日子中森明菜石川秀美堀ちえみ松本伊代三田寛子早見優など)のような、それまでの時代には普通だったソロのアイドルが、想定されているのだろう。
だが、80年代当時をふり返ると、プロのアイドル歌手でも素人っぽいアイドルでもない第三の道として、薬師丸ひろ子原田知世、渡辺典子の角川(映画)三人娘がいたのだった。映画やドラマを中心に活動しつつ、主題歌などで部分的に歌手活動も行うというアイドル的な女優である。中森が書いていたゼロ年代型アイドル女優のありかたの祖形を探せば、薬師丸たちにたどり着くだろう。
そして、『あまちゃん』のアキ=能年玲奈は、これから鈴鹿ひろ美=薬師丸と出会うわけだ。80年代においては第三の道であり、グループ・アイドル全盛の今に対して前の時代に勢いがあった“アイドル女優”を、アキは志向するようになるのであろうか。これからの展開が楽しみ。

タワーレコード社長 嶺脇育夫インタビュー「ソーシャルメディア、ライヴ、アイドル――パッケージが売れない時代の新たな販売論」

タワレコ渋谷店がリニューアルし、ネット配信できるイベントスペースやスタジオ、カフェが併設されたことに関し、インタビューでは「体験する場所、発信する場所」へのレコード店の生まれ変わりが語られている。
一方、「あまちゃん」では漁協の古い建物を改築し、海女のウニ獲りを中継するスクリーンやミニステージを併設した海女カフェをオープンしたのだった。こちらも「体験する場所、発信する場所」への変身だ。いわば、タワレコは海女カフェ化し、海女がタワレコ化した(笑)。
そして、私の著書でいうと、「体験する場所、発信する場所」について音楽の文脈から論じたのが『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』、地域というテーマから書いたのが『ディズニーの隣の風景: オンステージ化する日本』ということになる。後者では、以前話題になったかわいすぎる海女やご当地アイドルについても若干触れている。

鈴木京一(朝日新聞記者)「客とアイドルの20年史」

ファンの側の変遷を追った記事であり、アイドル側の推移を記述した中森原稿とあわせ読むと、立体的に歴史が浮かび上がる仕組みになっている。
ここでは、アイドルミニコミ(同人誌)についても語られており、その先駆けである「よい子の歌謡曲」(79年創刊)も登場していた。


一方、昨日、RIJFのタイムテーブルが発表され、メインステージの大トリがPerfumeであるほか、DJブースにBABYMETAL、でんぱ組.incなどのアイドル、八王子P、kz(livetune)などのボカロP、中川翔子らが出演することが話題になっている。
http://rijfes.jp/2013/timetable
「ロック」と冠されたフェスに、かつては遠いものととらえられていたオタク寄りコンテンツ、アイドル勢がたくさん登場するのだ。
ふり返ってみれば、「よい子の歌謡曲」は、B5の判型やレイアウトで洋楽誌「ロッキング・オン」を意識した作りになっていた。「ROCKIN’ON」に書かれた中森明菜評への猛批判が「よい子の歌謡曲」に書かれるなど、同誌を内容面でも意識しながら出発したミニコミだった。
時代は過ぎて、近年、アイドルやアニメなどをとりあげてきた雑誌「spoon」の斉藤まこと編集長は、90年代にロッキング・オンで洋楽誌、邦楽誌の編集をしていた前歴がある。
また、ロッキング・オンでも音楽専門誌以外の雑誌では、以前からアイドルやアニメなどを多くとりあげることがあった。2010年に「CUT」で『けいおん!』を特集した時には、「ROCKIN’ON」をパロディにした表紙を作っていたし。
http://natalie.mu/music/news/34680
これが「ROCKIN’ON  JAPAN」表紙のパロディだったら、もっとよかったと思う。
「よい子の歌謡曲」……「spoon」……『けいおん!』化したロキノン……。そのようなもろもろがあってからの今年のRIJFラインナップだと思うと、なかなか味わい深い。


7月3日、ゲンロンカフェに登壇します↓
円堂都司昭×中川大地「まちおこし進化論 東京ディズニーランド東京スカイツリー、そして『あまちゃん 』」
詳細・申し込みはこちらです↓よろしくお願いします。
http://peatix.com/event/14969