検索型ミステリとグーグル的探偵像

小保方晴子が今さら手記『あの日』を発表した。彼女の論文のコピペ問題については、ネット上でいろいろ検証作業が行われた。同様の事態は、佐野研二郎東京五輪エンブレム問題でも繰り返された。多数のネット民が、“捜査”(あら捜し)、“推理”(邪推)、“想像”(妄想)に参加したわけだが、なかには検証と呼ぶに値するものもあったのだ。
それらのことから連想したのが、渡邉大輔が提唱した検索型ミステリという概念である。彼は、グーグルやヤフーに代表される検索のような知のありかたが、現代ミステリに与えた影響を論じている。例えば、限界研編『21世紀探偵小説』所収の「検索型ミステリの現在」では、[真相や犯人をひと足飛びに「特定」することを目指すのではなく、確率的に「可能性の幅」を類推していく]プロファイリングに検索的な知をみている。
また、渡邉は、映像に関する批評書『イメージの進行形』において、映画やテレビだけでなく、ネット動画、監視カメラ、スマートホンなど現代では映像が氾濫する状態があり(映像圏)、そのなかから映画的な「作品」として見出される可能性のあるものが、ロングテールで存在することを指摘した。映像のロングテールについて渡邉は、「世界が映画になりうる」とも表現していた。
このことを前記の小保方−佐野問題に当てはめると、“捜査”、“推理”、“想像”のロングテールのなかに妥当な検証も混じっており、“誰もが探偵になりうる”状況があるといえる。
一方、建築家の藤村龍至は、様々なヴァリエーションのある設計の履歴を保存し(←いわば「ロングテール」)、グーグル的(=工学的・検索的)に設計を選択する「超線形設計プロセス」を提唱した。「思想地図」vol.3に掲載されたその論文は、「グーグル的建築家像をめざして」と題されていた。
渡邉と藤村の論考をもじっていえば、昨今のネット上にみられるロングテール化した“捜査”、“推理”、“想像”には、“グーグル的探偵像”が浮上している。インターネット以後のミステリ小説については、『サイバーミステリ宣言!』という評論集も出ているが、この領域で問われるべき新たな“推理”、“探偵”のイメージとは、ここで書いたような“グーグル的探偵像”なのであろうと思う。

あの日

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21世紀探偵小説 ポスト新本格と論理の崩壊

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イメージの進行形: ソーシャル時代の映画と映像文化

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NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

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サイバーミステリ宣言!

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