ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「QUEEN -HEAVEN-」

コニカミノルタプラネタリア TOKYO」で上映中の「QUEEN -HEAVEN-」。ブライアン・メイ監修によりドイツで2001年に制作された映像作品である。

https://planetarium.konicaminolta.jp/planetariatokyo/program/planetarium1/summer_19_3/


Queen Heaven - Trailer (360° Video)

 

 天文学者でもあるメイ監修のもと、クイーンの音楽を聴きながらプラネタリウムの360度半球スクリーンで映像を鑑賞する。そのような前情報から、もう少し宇宙寄りの内容を想像していた。だから、宇宙戦争を描いたSF映画フラッシュ・ゴードン』のテーマ曲から始まった時には、なるほどなるほど、と思っていたのだ。

 しかし、実際はプラネタリウムだから宇宙、というようなこだわりは薄く、全体的には半球スクリーンという特性を活かして、クイーンのミュージック・ヴィデオを新たに制作するor再構築するような形になっていた。

 タイトル通り、前半はフレディ・マーキュリー没後に発表された『メイド・イン・ヘヴン』の曲を中心に選曲。後半は往年のミュージック・ヴィデオに新たな映像要素を付加しヴァージョン・アップしてヒット曲の数々をふり返る構成だった。なかでも見応えがあったのは、CGで作りこまれた未来都市を空中カーで飛ぶ設定の「RADIO GAGA」。空間の奥行の臨場感、浮遊感がすごくて、クラクラめまいがしそうだった。

 作中ではメイが案内役として画面に登場する。ただ、大詰めにきて“ボヘミアン・ラプソディ”が新しいサラウンド・ミックス・ヴァージョンで流されることを直前にメンバー本人が紹介するのは、正直な話、興覚めに感じられた。せっかく暗いプラネタリウムのなかなのだから、商品説明的な現実は持ちこまず、ずっと雰囲気に浸らせてくれと思ってしまった。このへんのダサさは、ブライアン・メイロジャー・テイラーが監修したミュージカル『ウィ・ウィル・ロック・ユー』のラストで、ステージ上から最後にあの曲を聴きたいかと問いかけがあってから“ボヘミアン・ラプソディ”を演奏し始める野暮ったさに通じるものがある。気どらないのが、クイーンの大衆性だともいえるけれど……。

 360度視野いっぱいに映像が広がる場所の特性を活かした点では、クイーンのヒット曲の場面よりも、むしろ『メイド・イン・ヘヴン』終盤の隠しトラックを用いたパートがよかった。“Untitled”とされたその長尺トラックは、歌のないアンビエント・ミュージック(”It’s A Beautiful Day”にあった要素を拡張したサウンド)が延々と続く。「QUEEN -HEAVEN-」ではそれにあわせて自然の風景、抽象的なヴィジュアルが展開されていく。スタンリー・キューブリック監督のSF映画2001年宇宙の旅』のような、といったら褒めすぎだが、かなりのトリップ感である。場内ではここで眠ってしまった人もけっこういたようだけど、プラネタリウムならではの作品という意味では、このパートが一番面白かった。

 

 

最近の自分の仕事

--芦沢央『カインは言わなかった』書評 → 「モノマスター」11月号

- 道尾秀介『いけない』書評 → 「ハヤカワミステリマガジン」11月号

--「夜明けの紅い音楽箱」(とりあげたのは伊東潤『横浜1963』 → 「ジャーロ」No.69

--大森望が語る、『三体』世界的ヒットの背景と中国SFの発展「中国では『三体』が歴史を動かした」(インタビュー構成) https://realsound.jp/book/2019/09/post-421244.html

--『なめらかな世界と、その敵』『ベーシックインカム』……円堂都司昭がSF&ミステリー注目作を読む https://realsound.jp/book/2019/10/post-424198.html