ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

鯨統一郎『MORNING GIRL』

MORNING GIRL (ミステリー・リーグ)
作者お得意の“トンデモ仮説”ものの長編。ただし、ロジックを積み上げて一つの図式に絞り込むよりも、トータルでは発想を広げる面白さにウエイトがある。なので、本格ミステリ色は薄く、SFとしてのテイストが勝っている。
地球でも、スペースアイランド「飛翔」でも、人類の睡眠時間は減少し続けていた。果たして、睡眠とはなんなのか? 人はなぜ眠るのか? 科学者たちの探求が始まる……。
この小説は、アーサー・J・クック三世(どっかで聞いたような名前ですな)という無名SF作家が書いたものを、鯨統一郎が翻訳した体裁をとっている。そのまえがきで鯨は、

小説作法的に最初は違和感を覚えたものの、やがて気にならなくなった。

と記している。
作中では、1章のなかで話者の交代に伴い視点が変わる。こんな妙な書き方を採用したのは、人がなぜ眠るかの真相が(ミステリ風にいえば“犯人”が)ああなので、登場人物たち各人の内面が同時に覗ける書きかたをしたんだろう、たぶん。
SFとしては、オタク的なディテールの書き込みがなく、シンプルな語り口で放射能まみれになる地球が語られたりする点に、なんとなく、まだ朴訥だった頃の日本アニメ『宇宙戦艦ヤマト』を思い出してしまいました。