《ビフォア・アンド・アフター・サイエンス》以来の本格的歌ものアルバムという話になっているが、初期のポップなフォーマットを期待してはいけない。ピーター・シュワルムとの共作《ドローン・フロム・ライフ》のようなアンビエント・サウンドに変調ヴォーカルを乗せた曲が多い。M1、7みたいにイーノらしい艶のある歌を聞かせるナンバーもあるけれど、基本的に生の声と電子変調した声を同列に扱う姿勢である。これは電子民謡のアルバムで、「電子」と「民謡」のどちらにも力点を置かず、なごやかに鳴っているとでもいうか。
イーノについて語る人はどうしても、滅多に歌わない彼が歌うことの魅惑をいうか、エレクトロニクスを操作するプロデューサーとしての優秀さをいうかになりがち。でも新作は、魅惑とか優秀さとか目立ったことを主張しない穏やかさにこそ美点がある――そう思ったほうが気持ちよく聞ける。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050411)