「変態」という言葉の登場と、その後の意味内容の変遷を紹介した新書。知らなかった事実が多いので、興味深く読んだ。
当初、「変態」は性欲関連ばかりを指すのではなく、精神異常、犯罪、幽霊、迷信など、広く「異常」を意味する概念だったという。また、「変態」考察者と民俗学のかかわりも述べられている。
変態から民俗学へのシフトは、さほど奇異なものではありません。変態性欲の事例を過去の習俗に求めていけば、民俗学へ接合することは自然な流れとも言えましょう。
明治以降の西欧化により封じ込めの対象となった過去の異風俗に注目する「変態」考察者の姿勢は、必然的に民俗学に接近したわけだ。
この新書では、敗戦後間もなくのカストリ雑誌は、戦前の(変態〜)エロ・グロ雑誌の末裔であると記している。その点、カストリ雑誌の時代を舞台とする京極夏彦の〈京極堂シリーズ〉は、妙な性欲から迷信、幽霊まで、本書前半で説明されたような広い意味での「変態」を主題としている。したがって京極ファンには、『〈変態〉の時代』は面白いのではないか。
(そういえば、民俗学を学んだ後にロリコン雑誌の編集者を務めたマンガ原作者兼評論家がいる。彼などは、この新書の観点からすれば「変態」ど真ん中といえよう)
本書の話題はほとんど戦前に終始し、戦後の「変態」概念の推移については、エピローグで足早に触れているだけ。戦後や最近に関し、もっと詳しい記述が読みたかった。また、80年代前半に雑誌「ビックリハウス」で糸井重里がやっていた「ヘンタイよいこ新聞」に全然触れていないのは不可解。あれでいう「ヘンタイよいこ」は、いわゆる変態性欲とは異なる広いニュアンスだったし、『〈変態〉の時代』の著者なら関心がありそうなものだが……。
(「ヘンタイよいこ新聞」の紹介http://www.ne.jp/asahi/gomasio/rf-2/henyoi.html)