ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「STUDIO VOICE」9月号

STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2006年 09月号 [雑誌]
昨年の「SUTUDIO VOICE」6月号の「最終コミックリスト200」、今年の「ユリイカ」1月号の「マンガ批評の最前線」、「KINO」VOL.01の「マンガ新世紀宣言!!」ASIN:4309906753、そして上記の「現在進行形コミック・ガイド!」……。ラノベ語りブームを追ったかのごとく、ここ1年くらい、コミックの特集を見かける機会が増えた気がする(例にあげたうち、2冊が「SV」だけど)。

ケータイでコミック

「SV」最新号の特集をめくってみる。伊藤剛×芝田隆広×ヤマダトモコの座談会「コミック・シーンはどのように再編されるのか?」でコマ割りについて話されており、興味深く読む。
そこで、思い出した。7月に東京国際ブックフェアへ行った際、携帯電話の画面でコミックを読むための技術の紹介を見た。ケータイ向けの電子書籍は、ここ数回のブックフェアでは注目分野になっていて、特にコミックは有望視されているのだ。
しかし、雑誌連載を単行本化するのと、ケータイ向けに加工するのとは、大きな違いがある。コミックの1ページをケータイの小さな画面で一気に見ることは不可能だから、並んでいるコマを追う、あるいは大きな1コマに対し視点を移動させていく――という技術が重要になるわけ。
出版業界では何年か前まで、あんな小さな画面で文章をたくさん読めるかよ、と言われていた。ところが今では、小説に関しては読書専用端末よりケータイでの市場のほうが期待できるという話になっている。ということはコミックに対しても、画面の小ささに抵抗を覚えない層が増える可能性はある。仮にケータイ発のヒット作が出れば、あるいは、あらかじめケータイ用に描かれたコミックが多く出回れば、コマ割りに対する感覚も変化するかも――などと想像したりする。
とはいえ、現段階では一連のコミック特集で、ケータイ画面が話題になることはまずない。まだ、それくらいの、小さな市場でしかないが……。
(「ユリイカ」1月号で、竹熊健太郎がWEBマンガについて書いていたけれど)
http://ascii24.com/news/i/topi/article/2006/07/06/663303-000.html

西尾維新版『デスノ

「SV」のコミック特集では、『DEATH NOTE』と『×××HOLiC』をノベライズし、高河ゆんに原作を書いた西尾維新のインタビューも掲載されている。
西尾の小説版『DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件』ASIN:4087804399、オリジナルとコピーの相克、後継者=チルドレンといった要素、すでに事件の成り行きを知っている語り手などから、批評性を薄めてエンタメ度を上げた『多重人格探偵サイコ』(大塚英志のノベライズ版のほう)かな――という印象を受けた。このような感想を持った人はけっこういるらしい(『アナザーノート』をネタに、べつの場でコラム書いたから、今日はこのへんで)。

コミックファウスト」とか

「SV」には、その西尾も書いている「コミックファウストASIN:4063788083長もインタビューで登場している。
ファウスト」自体も「闘うイラストーリー・ノベルスマガジン」と銘打たれ、絵と小説の新たな関係を模索する場だったが、それをコミック中心のスタンスでさらに展開する場が「コミックファウスト」ってことなのだろう。批評的なコンセプトである。
そして、講談社は「ファウスト」以外にも、小説とコミックが隣り合う「エソラ」ASIN:4061795899。また、オタクカルチャーとの批評的な関わりかたという意味では、「萌え世代のモブカルチャーマガジン」を肩書きにした活字重視のオタク雑誌「メカビASIN:4061795910
これらの媒体は、微妙に狙いが交差しあっている。意欲的だけれど渾然としているのが、ここ最近の講談社の出版動向であり、今後どう展開してくれるのか、楽しみにしたい。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050518#p1


ところで、「SV」最新号は、第一特集がコミックだったのに対し、第二特集は「テクノ・サヴァイヴァル」。最新号の表紙は上のようになってるわけだし、『デトロイト・メタル・シティ』とデトロイト・テクノをひっかけた駄洒落的な誌面構成といえよう(笑)。
(なんだかんだで、「SV」のコミック特集自体の内容には触れなかったな。こういう時もありますよ)