ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

北田暁大「思考の遊歩」最終回

昨日の話の続き、みたいなもの。

(小説系雑誌つまみ食い 14――「文学界」3月号)

文学界 2007年 03月号 [雑誌]
北田暁大の「思考の遊歩」最終回を読む。この連載はたまに目を通す程度だったが、前号の第十一回「ディズニーランドからの『転向』」〜最終回「テーマパークの二重性」への流れには興味を持った。
北田は、自分がディズニーランド好きから“転向”したことを語る。

その転向とは、簡単にいえば、「八〇年代−ディズニーランド的なもの」から「九○年代以降―脱舞台的なもの」へのコミットメントの変化であった。

                                  第十一回

こう記し、渋谷が「記号的に閉じられた空間」から「相対的に便利な情報アーカイヴ」へ変化したという、『広告都市・東京』ASIN:433185017Xいする。西武−PARCOが街を「舞台化」した70年代から、来る者が街に記号性やアウラを求めなくなった「脱舞台化」の90年代へという議論である。――これが第十一回。
そして最終回で北田は、吉見俊哉ASIN:4314007230阿部潔ASIN:4788510162稲葉振一郎ASIN:4757101805みつつ、都市のテーマパーク化にも二種類あると整理し直す。
第一は、来場者はディズニーランドの外部を見られないというような「記号的な閉域化への欲望」。北田はこれを、「共同幻想としてのテーマパーク」と呼ぶ。
第二は、記号云々というより「人びと=動物が『快適』とみなす『環境』を再生産していくメカニズム」。こちらは、「人工環境としてのテーマパーク」とされる。この定義に基づき、北田は、「国道一六号線」沿いの大型量販店なども、第二の意味のテーマパークだとする。


この議論において北田は、ディズニーランドについて「二つの下位論理(共同幻想、人工環境)を内包していた」とまとめるにとどまっている。だが、彼の議論を読んで思ったことがある。
ディズニーランドを日本で運営する株式会社オリエンタルランドは80年代に、場の「舞台化」のトップランナーになった。しかし、00年代の戦略に関しては、微妙に、「脱舞台化」の風を受け入れた(取り入れた?)のではないか。
北田は「思考の遊歩」において、80年代のディズニーランドに言及するだけで、オリエンタルランドのその後の展開には触れていない。だから、僕が勝手に補足してみる。
“本国流”の輸入に力を注いだ東京ディズニーランド(1983年開園)は、“夢”の外部を見せないよう徹底させた点が、従来の国内の遊園地とは違っていた。しかし、オリエンタルランドが企画にかかわった東京ディズニーシー(2001年開園)は、浦安という立地を活かし、東京湾を借景する形で海のテーマパークがデザインされた。外の風景が見えるのだ。また、童心を重視するウォルト・ディズニーの初期の方針にならってランドは飲酒禁止だが、シーではアルコールが販売されている。つまり、シーはランドより、「記号的な閉域化への欲望」がゆるんでいる。
さらに、オリエンタルランドが2000年にオープンさせたショッピングモールに関して、本国側はディズニーブランドでの展開を望んだというが、日本側は「ディズニー」の冠は使わず、たんに「イクスピアリ」とネーミングした。イクスピアリにはディズニー関連ショップ、施設があれこれ入っているものの、オリエンタルランドとしては、実は脱ディズニーを目指した場所なのだ。これはブランド使用料を意識した判断だったが、東京ディズニーランド開業時のガチガチのテーマ縛りからすれば、ゆるんだ、といえるだろう。
複数の店舗を並べるにあたり、特定のテーマできつく束ねることなく、「相対的に便利な情報アーカイヴ」であればいいという姿勢。――こうなると、イクスピアリとロードサイドショップ(三浦展のいう「ファスト風土」)に本質的な差などない。
一方、舞台裏を見せないという意味では、容易に周囲を見渡せないよう、特に「上からの視線」を制限・管理するのがディズニーのテーマパークだった。しかし、2001年に開業したディズニーリゾートラインのモノレールは、テーマパーク内から見えない、テーマパーク内を見せないように作られたはずなのに、従業員だけが行き交う地帯が一部覗ける。「上からの視線」へのガードが甘い。
北田が論じる「記号的な閉域化への欲望」の後退が、そのトップランナーだったオリエンタルランドでも起きているというわけだ。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20060205#p1


北田は、「思考の遊歩」の「テーマパークの二義性」議論に関し、東浩紀との議論から大きな示唆を受けたと付記している。

東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム (NHKブックス)

東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム (NHKブックス)

  • 12日夜の献立
    • 牡蠣の中華風(しょうが、にんにく、サラダ油。牡蠣に片栗粉。豆板醤、オイスターソース、しょうゆ、香酢、ごま油)
    • 芽キャベツのオーブン焼き(白味噌入りホワイトソース、パン粉)
    • あじのマリネ
    • わかめの味噌汁
    • 玄米とひえのごはん