ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

デジタル生活と小説誌

(小説系雑誌つまみ食い 19――「小説新潮」6月号)

小説新潮 2007年 06月号 [雑誌]
「今日から楽しむデジタル生活」という特集が組まれている。そこで、角田光代が「iPod使いこなさず使っています」というエッセイを書いているのだが、僕も使いこなさず使っているくちなので、えらく共感した(今号の執筆依頼は、通販生活のCMに出ている角田さんもデジタル生活してます−−という駄洒落によるキャスティングだったりして)。
このエッセイは、タイトルから想像される通り、いかに自分が機械オンチかを強調した内容。でも、そのなかに、さらっと次のような文章が出てくる。知人から突然iPodが送られてきたことを語った部分だ。

私が某ウェブ用に書いている短編小説の朗読が、Podcastで流れることになるので、そのウェブを仕切っている仕事相手からの贈り物なのであった。

そうなのだ。いくら機械オンチを自認していても、今時、小説家をやっていれば、「ウェブ」、「Podcast」といった言葉はまとわりついてくる。
角田のエッセイのすぐ次には、「ポッドキャストでiPodを使いこなせ!」という記事が載っており、そこではオーディオブックについて触れられている。また、速水健朗が「ブログとSNSの歩き方」という、ネット上の文字文化状況紹介的な原稿を寄せている。
http://d.hatena.ne.jp/gotanda6/20070524
このへんの話題までは、小説・文字関連ということで「小説新潮」に掲載されるのは理解できる。しかし、この特集ではさらに、「もっともお得な通信費節約術」という、とても小説誌とは思えないテーマまで盛り込んでいるのだ。
しばらく前、CDや本の売上げが落ちたのは、携帯電話やパソコンによって通信費が膨張し、消費者が他の商品を購入する余裕を失くしたせいだという分析が、やたらと言われた時期があった。その状態はすっかり日常化してしまったわけだが、だったら逆に出版文芸業界側から「もっともお得な通信費節約術」を提案して、浮いたお金を小説に回してもらおうよ――というのが「小説新潮」の発想なのかもしれない。


さて、このように出版界が難しい状況にあるなか、今日、神保町の書店街に出かけた。某小規模新刊書店に入ると、店員の会話が聞こえてきた。若い店員が年配の店員(店長?)に、ほとんど一方的に語っている様子である。以下、内容の大筋を記憶で書いてみる。
「これからは、本屋に来る人は減るでしょうね。例えば、わざわざ新宿の本屋まで買いに行っても、買いたい本が本屋にあるとは限らないし」
「店にお客さんが来なくなったら困るじゃないか」
「困りませんよ。ネットで売ればいいんですもん。逆に、店舗に余計な在庫持たなくていいから、コストが減りますって。
 それに今は、デジタルデータで読めばいいんだし、必ず紙の本で出す必要なんかない。だから、特別きれいな紙でできているとか、持っていたいと思う本を出版社が作るんでないと、本を出す意味があるのか……」
いや、君の現状認識が検討違いだとは言わんよ。それをバックスペースで議論するんだったらいいさ。でもな、店内のレジで、客に聞こえる音量で話すな、コラ。わざわざ千葉県から都内まで地下鉄に乗って、紙の本を物色しにきた俺がバカみてぇじゃねぇか、このクソボケがっ。
それなのに探していた本をその店で見つけ、いそいそとレジに持っていったおとなしい自分が、哀れで哀れでならない……。


ところで、角田光代といえば、妊娠してしまった女性が故郷に帰ったら、なぜか母親がニルヴァーナを大音量でかける人になっていたという、胎教に悪そうな話がある。川端康成文学賞を受賞したその「ロック母」asin:4062140330が、今度、単行本に収録される。よい短編です、これは。
http://www.bk1.co.jp/product/02789718

  • 30日夜の献立
    • チキン入りラタトゥイユ(にんにく、オリーブオイル。なす、ズッキーニ、エリンギ、にんじん、玉ねぎ、ピーマン。赤ワイン。ブイヨン。ローズマリー。カットトマト缶。ハーブ塩、こしょう、バルサミコ
    • サニーレタス(ポン酢)
    • 玄米ごはん