ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

渡辺淳一語録@浦安

6月1日付のタウン紙「うらやすニュース」のトップ記事は、5月17日に行われた第18回浦安文学賞授賞式だった。渡辺淳一が選考委員を務める賞で、今回は19歳の男性が受賞したが、ほかの佳作・奨励賞6人はいずれも女性だった(25歳、65歳、52歳、42歳、46歳、36歳。ちなみに、賞を主催する浦安ニュース社は女性社長)。入賞者には当然、賞状や賞金が送られたが、副賞は渡辺淳一著『鈍感力』asin:408781372Xだったという……。
紙面には、出席した入賞者たちに淳一が語った評やアドバイスの言葉が記録されていた。豊崎由美asin:4891947543のような、全国の淳一選評ウォッチャーのために、それらを抜書きしてみる。
実川れおの受賞作「ほくほく」について。

小説はその通りじゃないけど、実感がないと書けない。全然恋愛しないで、恋愛は書けないでしょう。実川君の作品はやきいも屋を手伝った実感があるから、非常にリアリティーがあった。

タイトルのつけかたに関する質問に答えて

私はタイトルを付けるまでに1週間から10日くらい延々と考えます。(中略)ら行の音には流麗さがあり、『い』音は清潔感があるなど、語感を活用するのも良いでしょう。

小説を書く時のモデルについて。

モデルが特定できないように副次的な条件を付け加えればいい。ここまで書いていいのかと迷っていては、良い小説は書けません。きれいごとではなく、どろを吐かないと。

ある奨励賞の作品について。

母親の手術を待つ間に兄弟が初めて思いを明かし合うという状況設定は魅力的ですが、異性を書くのは難しいんです。自分の内面のことを書かずに、よく分からない男の兄弟のことを書いたから、男から見ると、兄弟はこんな言い方はしない、というところがいっぱいあった。小説はフィクションだけど、嘘ではいけません。

別の奨励賞の作品について。

あなたも、どうしてあなた自身を書かないで、やったこともない夫を書くのですか。夜泣きがうるさくて、飛び出してきた夫の心理はちっとも分かっていない。自分を書いてください。自分のことを書かないのは逃げです。もったいない。

『鈍感力』について。

何でもある程度の実績ができると、嫉妬や中傷をされることが多くなりますが、これはうれしいことだと考え直して感謝した方がいい。それなりにすごいところがあるから、嫉妬されるわけで、嫉妬する人の方が疲れるし、つらいのです。

鈍感力は圧倒的に女性の方があるようです。妊娠、出産、育児、どれも鈍感力がないとできません。おおらかな母親に愛情豊かに育てられた子供には鈍感力が身に付きます。

また、この日の紙面では浦安文学賞関連に3ページをあてていたが、うち1ページ強を使い、授賞式に出席した入賞者たちの感想を綴ったエッセイ7本を載せていた。その誰もが、渡辺から頂いたお言葉のありがたさ、淳一の人柄の素晴らしさを記している。
〔熱い口調で励ますように先生がおっしゃってくださって、とてもうれしく思いました〕
〔とても笑顔がステキな方〕
〔また、先生の秘書の方が「先生は何があっても、それがどうしたの、と動じられないのですよ」とおっしゃっていたのが、忘れられません〕
〔渡辺先生のお言葉はどれも書きとめておきたいほど貴重なものばかり〕
〔先生に褒めていただき、とても励みになりました〕
あの、新興宗教のパンフレットじゃないんだからさぁ……。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20060601
懲りない男と反省しない女 (中公文庫)

  • 1日夜の献立
    • かれいの煮付け(しょうが、しょうゆ、酒、みりん)
    • ほうれん草とあぶらげの味噌汁
    • はつか大根(ねりごま、大豆マヨネーズ、しそ梅酢)
    • 玄米ごはん(軽く炒ったじゃこ、白ごま、しょうが、べにしょうが、青しそ、梅酢)
    • ビール、雑酒、焼酎