- 最近自分が書いたもの
- 「2007年のニルヴァーナ」 / 「BOOK おんざろっく」第1回 ストーンズが聞こえる小説(←絲山秋子『ダーティ・ワーク』、東山彰良『イッツ・オンリー・ロックンロール』を取り上げた) → 「ロックジェット」Vol.29(シンコーミュージック・エンタテイメント刊)asin:4401631358
↑の雑誌はニルヴァーナ特集で、川端康成賞受賞短編「ロック母」に関する角田光代のインタヴューも掲載されている(実は、編集部にインタヴューしたらどうかとすすめたのは、自分である)。角田の発言の一部は「Lエルトセヴン7 第2ステージ」にも紹介されている。
http://aboutagirl.seesaa.net/article/53658335.html
「ロック母」では、祝福されぬ妊娠をした娘が島の実家に帰ってみると、母が娘の残していったロックのCDを大音量でかけている。ヘヴィ・ローテーションは、ニルヴァーナ。やがて、お産の最中の娘に、母は無理矢理ウォークマンで《ネヴァーマインド》を聞かせるのだった。
この短編のなかでは、ニルヴァーナに関して詳しい説明はされていない(母はもちろんロックに無知という設定だが、娘がどれくらい知っているかはぼかされている)。
しかし、読者が、このバンドやそのヴォーカリスト、カート・コバーンについて知っていれば、小説からいっそう独特な感覚が醸しだされるようになっている。
例えば、こう書かれている。
「ブリーチ」と「ネヴァーマインド」の二枚しか私は持っていないが、母は「ネヴァーマインド」のほうがお気に入りのようだった。私が思うには音楽の好みの問題ではなくて、ジャケットの好みだろうと思う。
ここではどんなジャケットなのか記されていないが、私たちは、水の中で赤ん坊がお札を追いかけているという皮肉な写真だと知っている(発表当時、インディーズからメジャーへ移ったニルヴァーナが、自分たちを自嘲したデザインだなどともいわれた)。
また、産気づいた娘の耳に《ネヴァーマインド》の大音量を流し込む母は、娘に寂しくないようにと願ってそうした節がある。
しかし、カート・コバーンは、大ヒットした《ネヴァーマインド》の次作《イン・ユーテロ》(ユーテロ=子宮)を発表後、娘フランシスが生まれてまだ2年もたたないうちに猟銃自殺した。それを考えれば、ニルヴァーナほど胎教に悪い音楽はないかもしれない。でも一方で、カートが死んだ後もフランシスは成長し続けたのだから、母の行為は男の協力なしでシングル・マザーになる娘へのはげましに結果的になっている、と強引に解釈できなくもない。
「ロック母」における母と娘のディスコミュニケーションは、赤ん坊や生死をめぐるニルヴァーナのあれこれを知っていると、よけい悲喜劇性を増す。
で、角田光代の新刊。あまりにも大胆なタイトルを知って、驚いた。
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2007/09/01
- メディア: 単行本
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あのギタリストの誕生日に母になる予定の「私」の話だという。ロックな題名で妊娠小説ということは、「ロック母」での受賞に対する返礼のつもりだろうか。
そのうえ、この新刊にあわせたトークショーが「ちなみに今日ならブレット・アンダーソン」と題されているとは……。
http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_200709/post_204.html
ちなみに僕は、ブレットの歌ならスウェード時代の〈アニマル・ナイトレイト〉が一番好きです。
(そういえば、ザ・ローリング・ストーンズからタイトルを拝借した絲山秋子『ダーティ・ワーク』も、妊娠小説だったな)
渋谷陽一社長は、自社のフェスでは毎回、レッド・ツェッペリン〈永遠の詩〉の大音響にのって入場し、「朝礼」と称して諸注意を述べるのが恒例となっている。彼は、角田の新刊タイトルをどう感じるんだろ? 渋松対談のネタにするだろか。