ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

伊坂幸太郎の「ゆうびん小説」

「小説推理」4月号asin:B001S9JSPKをめくっていたら、59ページにこんな告知が。

伊坂幸太郎さんがまったく新しい方法で、小説を発信します。
その名も『ゆうびん小説』!
ご応募いただいた方には抽選で、伊坂さんが現在執筆中の連作小説『バイバイ、ブラックバード』のうちの1話を、郵便であなたのご自宅に届けます。

詳細については、こちらでも確認できる。
http://www.futabasha.co.jp/introduction/postal_novel/


連作のうち5話をそれぞれ抽選で届けるわけだが、最終の6話目を加えた単行本は来年刊行予定。なるほど。伊坂の場合、いくつかのストーリーが並行して進み、最後にそれらが合わさって意外な全体像が浮かび上がる――という構成を得意にしている。そうした手法を活かすために、「ゆうびん小説」なる発信形態が使われるのではないか――と僕は推理したが、実際はどうなるだろう。井上夢人ハイパーテキスト小説「99人の最終電車」でやったような実験を、伊坂は郵便スタイルを活かす形で行うのではないかと勝手に想像(妄想)しているのだけど……。
いずれにしろ興味深い試みだし、これからの展開に期待している。


今回、双葉社が「ゆうびん小説」を企画した背景には、言葉・文章の居場所がウェブやケータイに移りつつあるなかで、あえて古めかしい郵便スタイルで小説を送ってみようという意識があったはず(このへんは、封筒に入れた雑誌=「エクス・ポ」と発想が近いかも。そういえば、佐々木敦編集の新雑誌「ヒアホン」がもうじき出るね。http://expoexpo.exblog.jp/9292117/


で、「ゆうびん小説」と聞いて、ちょっと思ったこと。レディオヘッドは《イン・レインボウズ》asin:B000YY68MGをCDで発売する前、まずHPでダウンロード販売した。しかもその際には定価を設けず、ユーザーが価格を決めていい形で売った。これと同じく、もしも伊坂の「ゆうびん小説」に関し、応募者が自由に購入価格を決めていい形にしていたら、どんな反応になっただろう――と、いろいろ想像してしまった。
レディオヘッドの試みは話題になったものの、世界的な人気バンドだからこそ可能になったのであり、普通のバンドではできないとする意見も多かった。とはいえ、音楽のビジネスモデルを考え直す一つの契機になったことも事実だ。
ならば、出版界の方でも、まず、人気作家にしかできない試みをやってみて、それを契機に次のビジネスモデルを模索していけばいい。双葉社の「ゆうびん小説」企画が、そのきっかけ、あるいは呼び水になればいい。1回限りのお遊びととらえられて終わるのでは、もったいない気がする。

これ↑はマイルス・デイヴィスへのトリビュート作。93年のキース・ジャレット・トリオ来日公演(よみうりランド)は、友人に誘われて見に行った。キース・ジャレットに関してはあのうめき声が嫌いで、黙ってピアノ弾いてろ、と思ってしまうのだが、ジャック・ディジョネットのドラムはカッコいいと思っていたから誘いにのったのだ。〈バイ・バイ・ブラックバード〉も聞いたな。この曲が伊坂の小説と関係あるかどうかは、現時点ではまったくわかりません。