ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

モリッシー《ユー・アー・ザ・クワーリー》

ユー・アー・ザ・クワーリー
約7年ぶりのアルバムだからといって、モリッシーが変わるわけがない。ふわっと柔らかいくせに皮肉っぽい、あの歌声が発せられた瞬間から彼の世界になる。正直な話、こういうのは前もあったよな、と既視感を覚える曲もちらほらある。でも、そのことでかえって、彼が歌ってきた曲調や芸風の総決算を聞かせる内容になっている。だから、満腹感がある。
モリッシーのソロでは、スティーヴ・リリーホワイトがプロデュースした《ヴォックスオール・アンド・アイ》(94年)が、これまでの最高作だった。昔在籍したザ・スミスとどのように距離をとるか、その試行錯誤から抜け出したのが、同作だったといえる。オーソドックスなギター・ロック/ポップだったが、足腰のしっかりした音にしたことが効いていた。だが、リリーホワイトとの共同作業はその後、次第に下降線をたどり、モリッシーは隠遁してしまった。
これに対し、グリーン・デイやblink-182の仕事で知られるジェリー・フィンをプロデューサーに迎えたこの新作は、リリーホワイトとの最初の作品にあったサウンド「活性化」に通じる聞き応えがある。新作はギター・ロックにキーボードやストリングス、フルートなど、彩りの音色を加えたアレンジになっているが、やはり足腰が強い。なよっとしたルックスでありながら、妙に頑固で辛辣なモリッシーには、彼の頑固さに釣り合う筋の通ったボトムがあったほうがいい。ゆえに、今回のプロダクションは正解。
そういえば今月末には、ザ・キュアーも新作発売を予定している。モリッシーとともに、「青春の悪夢」80年代版を代表したロバート・スミスまでがこの時期に姿を現すとは……。できすぎのタイミングだけれど、二人の仲を振り返ると、相談したとも思えない。まさか、ね。