ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

ラノベ関連本

このライトノベルがすごい! 2005』

ISBN:4796643885

    • このミステリーがすごい!』編集部・編のはずなのに、記事構成にあちらほど起伏がない。『ラノベ完全読本』みたいなインタビューや座談会がないので、データばかり羅列される印象が強い。特に1ページに6作もつめこんだジャンル別ガイドは、コミケ・カタログの紙面に近いゴチャゴチャ感があって、非おたくの僕には読みにくかった。
ライトノベル完全読本2』

ISBN:4822217086

    • 一連の“ラノベ解説”ブームは、ジャンルに関して行われると同時に、その業界に対しても行われている。そして、“業界”ってものについて語ることでは、日経はやっぱり自分のスタイルを持っているなぁ、という印象。ラノベ・フィールドの外からそこを見渡したいと思ったとき、このジャンルの歴史、地理、証言をまめに拾って最も手際よく紙面構成したのはこの2冊だろう――と(さも客観的に判断できるかのように)感じられてしまう。ラノベの外野の人間からすると、新聞の紙面構成みたいなリアリティ=それらしさ、がある。多少の価格差はあるにせよ、最終的にこちらのほうが『このラノ』よりもページ数あたり、金額あたりのお得感があるのではないか。
大森望 三村美衣ライトノベル☆めった斬り!』

ISBN:4872339045

    • 61年生まれと62年生まれのSF系読書人が、語り倒す。2人の書評家のキャラや好みをいったん呑み込みさえすれば、そこで紹介される本がどんな感触のものなのか、だいたい想像できる(気になる)。僕も含めラノベ摂取量の少ない読書家が、このジャンルを手っ取り早く知った気になるには、一番その気にさせてくれる本だと思う。放談スタイルで伝えられるぶん、人の体温が感じられるわけで、なじみのない世界に関する、自分にとっては味気ないデータが、すんなり頭に入ってくる(気にさせてくれる)。


ところで、『ライトノベル☆めった斬り!』で、おやっと思ったのは、三村の次の発言。

たぶん少女小説って、基本的にはあんまりライトノベルと関係ないんだよ。今も関係ない部分をずっと残してる。

ならば、男の子的なものが主体であるラノベ少女小説には、いったいどんな距離があるのか。とても興味をひかれるが、このガイド本内では議論は深められていない。
けれど、三村の発言はきっと、斎藤美奈子編『L文学完全読本』(2002年。休刊した「鳩よ!」の置き土産)ISBN:4838714157とからんでいるはず。少女小説〜女性小説のガイドブック『L文学完全読本』が刊行された背景には、唯川恵山本文緒など、少女小説出身作家たちへの注目があった。また、最近の“ラノベ解説”ブームでも執筆している米光一成が、『L文学』ではコバルト文庫を解説していたのだった(娘ひとみが作家デビューする前の金原瑞人もYA文学について書いていた)。
僕は、三村のいう少女小説ラノベとは関係ない部分が育っていったのが、斎藤美奈子のイメージしたL文学=女性小説なのだと思う。ラノベが注目される今だからこそ、もう一度『L文学』は話題になっていいと考えるが、どうか。そして、女の子〜女性の小説領域を語るには、一連のラノベ本や『L文学』があまり語っていない、「JUNE」〜やおい〜ボーイズ・ラヴの流れ、〈ハーレクイン・ロマンス〉の日本での展開なども、より総合的に押さえておくべきなはず。誰か女性評論家が本腰入れてやってくれるとありがたい(「本腰入れて」ってセクハラっぽいかも)。


それにしても、一連のラノベガイド本に漂う微妙にヤな感じはなんなのか? どの本も外部からラノベ・フィールドに注目し、このフィールドと外部の関係がよくなればいいな、という願望を漂わせてはいる。ところが、ガイド本の紹介するラノベ読者像は、一般小説どころかラノベ作家が書いた新書版すら読むのは少数派、とにかくラノベしか手にとらない、ラノベ内でも特定レーベルの読者はべつのレーベルには知らんぷり――なんて、馬鹿丸出しの視野狭窄ぶりばかり。ガイド本群は、ラノベ・フィールドとの友好願望をのぞかせる一方で、外部に無関心な読者に対して諦念がなくもない印象なのである。そのへんがどうにも、めくっていて居心地が悪い。


雑誌のラノベ特集では「SFマガジン」2003年7月号の「ぼくたちのリアル・フィクション」特集が早かったが、あれは要約すればSFをラノベで活性化しましょうという主旨だったろう。それに対し、特定ジャンルの出来事にとどまらない“ラノベ解説”ブームの引き金になったのは、冲方丁×乙一の対談を載せた「クイックジャパン Vol.54」だった。ハルカリライトノベルサンボマスターと、ものすごいラインナップの三大特集を組んだこの号は、一冊の雑誌全体としてラノベを今みたいに変に特権化せず、“若さ”のバラエティの一種として扱っていたのがよかった(なので今さら表紙画像を掲げてみる)。編集長は変われども、アニメ雑誌以外でいち早く『エヴァ』を特集し、『バトル・ロワイヤル』にどこよりも速く注目した雑誌だけのことはある。
クイック・ジャパン (Vol.54)
そんなことを考えてくると、ふだんから普通小説とラノベを自然に並列に取り上げてきた「活字倶楽部」は、平常心な、本当によい“文芸情報雑誌”だとあらためて評価したくなる。でも、応募者だけがもらえる「かつくら創刊10周年メモリアル本」の申込、俺、締め切り忘れてたんだよね。残念。

これで、綾辻行人暗黒館の殺人』も含め、京大推理研出身作家3人による久しぶりの長編惑星大直列に関しては、すべてなにかしらコメントしたことになる。なんつうか、感無量。

  • 夕べの献立
    • 鶏肉のバターソテー
    • ニラ卵の味噌汁
    • 小松菜の炒め煮
    • 小ナスの漬物