ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

佐藤友哉『鏡姉妹の飛ぶ教室』

鏡姉妹の飛ぶ教室 (講談社ノベルス)
ユヤタン版『漂流教室』『クビツリハイスクール』『ドラゴンヘッド』『不思議の国のアリス』……。
最初のページからいきなり大地震が起こって、土中に埋まってしまった校舎で展開される素っ頓狂なお話。実にご都合主義なことに、ごくわずか生き残ったのは生徒だけで、教師や用務員、親といった大人は登場しない。しかも、超人的な身体能力を持った中学生が、当たり前のごとく登場して暴れてくれる。
なのに、この小説は、まるでNHK中学生日記」みたいな、実に正統的な学園もののテイストを持つ。なにしろ、生まれながら運命は決まっていると主張する選民思想派VS本当に本気でやればなんでもできる派という、とてつもなく「青春」な価値観の闘争が描かれているのだ。今まで誰からも気にしてもらえなかったヤツ、「できるもんか」が口癖のしょーもないヤツ、ごく普通の子たちが、ずば抜けた身体能力のキャラと同等の存在感を主張しようとする。「弱い者同盟」を結成して、土中の学校にとどまろうとするくだりなんか、中学生たちのいたいけさに、ちょっと泣きそうになった。
痛みを知らなかったものがようやく痛みを知り、敵対するもの同士が和解する。青春小説の王道じゃないか。作者の性格の悪さを確信させる、ひねくれた二重の結末は、なるほど佐藤らしいものではあるけれど……。
本書における“いじけかた”の書き分けぶりを見ると、佐藤がよくやる“私小説風”展開がストレートな自分語りではなく、“芸”であることが理解される。その意味で、西尾維新における『新本格魔法少女りすか』が、戯言シリーズ以上にエンタテインメントとしてカッチリしているのと同様に、〈鏡家サーガ〉例外編と銘打たれた本書は、佐藤作品のなかでは輪郭がくっきりしている。西尾的娯楽性に接近したうえに、滝本竜彦ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』にあった“ダメさ肯定”テイストを練りこんだような。そんな小説である。
以前、自分は「空転する痛み――西尾維新における傷の無意味と意味」という文章を「ユリイカ」増刊の西尾特集ISBN:4791701240、『鏡姉妹の飛ぶ教室』にも痛覚の欠落したキャラが出てくるのだった。この界隈の若手作家では本当に多いな、痛覚異常のモチーフが。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20041202