ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

平井玄『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』

ミッキーマウス」の比喩がどんな風に使われているか知りたくて、『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』を読んでみた。
ミッキーマウスのプロレタリア宣言

日本階級社会には、支配する人間と、忠実な犬と、路上を徘徊するネズミとがいる――。

と帯にある通り、ジョージ・オーウェル動物農場ISBN:4042334016ピンク・フロイド《アニマルズ》ASIN:B00005GL8S、動物への見立てである。
1928年のアニメ「蒸気船ウィリー」で初登場した際、ミッキーマウスアナーキーなやんちゃ坊主だった。一方、1920年代には、工場の生産ライン再編成を生活のほかの部分にまで拡大しようとしたフォード社と労働者が衝突したという。著者はベンヤミン経由で、その労働者と初期ミッキーマウスを二重化してみせる。そのうえで、やがて骨抜きにされ優等生になった現ミッキーマウスと、今時のフリーターを重ね合わせるのだ。
マクドナルド化する社会』ISBN:4657994131ジ・リッツァが、人と空間を再編成する“イズム”としてフォード、マクドナルド、ディズニーを列挙していたことを思い出す。
また、平井がアメリカのキャラクターであるミッキーを引っ張り出したことには、同国のグローバリズムネオリベラリズムの影響によって、日本の非正規雇用者=フリーターの現状があるとの批判もこめられている。
60年代的な学生運動の終焉を決定づけた連合赤軍事件に触れた後、著者はこう記す。

そして一九七二年三月以降、この国ではたった一つの物語しか語られなくなったのである。企業に入るために学校へ行き、企業の枠の中で生き、そこで家族を持ち少しでも上昇していく――という貧しくも悲しい物語だけが。

この物語は、いつまでも続かなかった。90年代半ば以降、経済界が従来型の正規雇用の維持から非正規雇用の使い捨てへと転換したこと、2003年に内閣府が「フリーター」を再定義したことなどに、平井は現ミッキー的なネズミ労働者増加への象徴的転換点を見出す。そして、68年革命をノスタルジーで語る者への嫌悪を示しながらも、永山則夫ISBN:4309402755し、今時のフリーターたちが、72年以前の学生たちがそうしていたように企業社会の価値観に反抗することを、夢見てしまうのだ。
著者は、自分がこれまで出会ってきた苦境の労働者たちのエピソードを、思い入れして書き込む。そのへんは、なかなか感動的だ。けれど、ミッキープロレタリアたちに対し、お前らはハメられた階級なのだと訴える平井の言葉は、“自己実現のためにとりあえずフリーターやってます”的な気分の若者には届かないだろう。そのことが、痛ましい/イタイ。
フリーターの浮ついた若者が、ディズニーランドでバイトして働く喜びに目覚めるという軟弱な小説=松岡圭佑『ミッキーマウスの憂鬱』と、この『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』を併読すると、なにやらやりきれない黒い笑いがこみ上げてくる。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050705
Disney: 2006 Day-to-Day Calendar

  • 29日夜の献立
    • アジの開き
    • じゃがいも、にんじん、たまねぎの味噌汁
    • 小松菜をゴマ油で炒めてめんつゆ浸し
    • 100%玄米ご飯に白ごま
    • みかん
  • 30日夜の献立
    • 豚肉のから揚げ風(しょうゆ、酒、おろししょうが&にんにく、刻んだ青ねぎに浸した肉に片栗粉。おおめのサラダ油で焼く → 思ったほどカラッと仕上がらず、油っぽくなった。反省)
    • キャベツ、もやし、玉ねぎを塩こしょう、サラダ油で炒め、若干ポン酢
    • なめこの味噌汁
    • 白米1:玄米1のごはん