ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

米澤穂信「入荷と返品の間に残るもの」

(小説系雑誌つまみ食い 22――「小説すばる」7月号)

小説すばる 2007年 07月号 [雑誌]
http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/
小説すばる」はこの号で、「本屋さん大好き!!」という特集を組んでいる。
そのなかで南陀楼綾繁が、実録・妄想の向こう側「本屋さんになりたい。」というレポートを書いている。本屋になりたいと思い、実行に移した人たちを取材しているのだが、そこに登場するのは古本屋ばかり。文中では、今、町中に新刊書店を開業することがいかに難しいかが語られていた。
逆にいうと、出版業界が難しい状況だからこそ、「本屋さん大好き!!」と小説誌が宣言し、互いの仲間意識を高めたくなるわけである。べつに特集で触れられているわけではないが、仮想敵の一つは、いわゆるデジタルコンテンツ産業だろうし、その意味では「小説新潮」6月号のデジタル生活特集と裏表の関係にあるような特集だ。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20070601#p1


小説すばる」の特集には、作家のエッセイだけでなく、例によって書店員の写真つきコメントも並んでいる。特集のメインは、本屋大賞受賞作家・佐藤多佳子asin:4062135620と萩原規子の対談である。こうした誌面構成からすると、書店員が選ぶ本屋大賞の次回に向けて、小説系出版社が書店と関係を良好にしておこうとしている。そんな風に見えなくもない。
のど自慢の番組にマメに出演している演歌歌手を見て、ああ、NHKへの貢献度を上げて紅白に出ようとしているんだな、と思うのに似た感じ。――と書いたら意地悪すぎるか。


さて、この特集では、書店に関する思い出を数人の作家に綴らせていて、米澤穂信が、「入荷と返品の間に残るもの――S書店 雪降る匠の里支店」というエッセイを寄せている。これが、自分の書店員勤務の経験を反映した、実に赤裸々な内容。
利鞘が薄くマンパワー頼りの書店業界について、

つまり望むと望まざるとにかかわらず「本好きの愛と知識をバイト料金で買い叩く」システムになっていて、

なんて身も蓋もないフレーズが出てくる。しかし、それでも「愛」は残されているのだと結論するこのエッセイは、ちょっとした迫力がある。
これを読んで私は確信した。予言しておく。東京創元社つながりということもあるし、『配達あかずきん』asin:4488017266に始まる大崎梢の書店員ミステリ〈成風堂書店シリーズ〉が文庫化された時には、きっと米澤が解説を担当して、この「愛」をより詳しく語ることになるであろう、と。