ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

novel

村上龍『半島を出よ』

上巻は4月に目を通したのに、下巻に手をつけ読み終えたのはつい最近。ほかに読まねばならぬものが出てきたり、外的要因で中断した面もあるが、なんだか一気に読めなかったのである。というか、一気に読まなくてもいいと思ったのだ。 この小説は、(侵略者に…

「クレヤボヤンス マイミクシィ」

創刊10周年記念の「小説トリッパー」2005年夏季号をめくってみると、朝日新人文学賞が発表になっていた。受賞作は楽月慎『陽だまりのブラジリアン』だが、落選した候補作のなかに、ちょびっと目立つタイトルがあった。 クレヤボヤンス マイミクシィ 佐東歩美…

倉橋由美子死去

10日に亡くなっていたのだという。黙祷。 高校から大学にかけて、大江健三郎、安部公房、倉橋由美子の文庫を、古本屋の100円均一などで買い集めていた。そしたら、誰かのエッセイで読んだのだ。この3人は、60年代の文学青年にとって三種の神器だった、と。あ…

朝日の朝刊「文学賞異変」

朝日新聞の今日の朝刊に、1面トップにするほどの内容じゃないと思うが、「文学賞異変」という記事が載っている(署名は「野波健祐」)。その見出しを並べると―― 文学賞異変 創設ラッシュ 審査員から作家外し テーマは「恋愛」「青春」「感動」 権威より販促 …

『巨匠とマルガリータ』と『NANA』

最近書いたもの 「『巨匠とマルガリータ』と〈悪魔を憐れむ歌〉」、「『NANA』とセックス・ピストルズ」 → いずれも「ロックジェット Vol.20」(シンコーミュージック発行。6月2日発売ISBN:4401619404) 前者は、ロシアの小説とそれに影響されて詞が書か…

ロジャー・ウォーターズと大江健三郎

ピンク・フロイド分裂後の、ロジャー・ウォーターズのソロおよびデイヴ・ギルモア主導フロイドの作品が、紙ジャケで再発される。 ウォーターズの作品では、ジェフ・ベックがゲスト参加した《死滅遊戯 AMUSED TO DEATH》が、コンセプト・アルバムとしての構成…

廣野由美子『批評理論入門 「フランケンシュタイン」解剖講義』

副題にあるように、メアリ・シェリーのあの有名な(でも実際に読んだ人はそう多くない)ホラー小説を読むことを通して、文学批評理論のあれこれを解説した入門書である。 第1部の「小説技法編」では『フランケンシュタイン』ISBN:4488532012つ、ロシア・フォ…

朱川湊人「妖精生物」(と坂田明『クラゲの正体』)

ちょっと前、昨年に雑誌掲載されたミステリ系短編をアトランダムに90作くらい読む機会があった。そのなかに、朱川湊人の作品が複数混じっていた。朱川に関しては、昨年発表した短編の数においてトップ・クラス(20作を超える)であるだけでなく、クオリティ…

新潮文庫「ニューウェーブ注目作家」フェア

今日の朝刊に、新潮文庫5月の新刊広告が出ていた。今月のフェアは「ニューウェーブ注目作家」。鈴木清剛、中原昌也といった「J文学」(ピークは99年頃?)を象徴した作家よりも、伊坂幸太郎、舞城王太郎の“両太郎”の名のほうが大きく印刷されていることに時…

浦安文学賞

毎月1日、朝刊の新聞に「うらやすニュース」というタウン紙が折り込まれてくる。昨日届いた分の1面トップは、浦安ニュース社主催、浦安市・市教育委員会後援による第16回浦安文学賞決定の記事だった。同紙の報道によると、 浦安文学賞 「抱きよせる波」――15…

「ポストライトノベルの時代へ」

最近のお仕事 乙一インタビュー「ライトノベルと、ガラスのコップ」の構成 → 「小説トリッパー」2005年春号 特集「ポストライトノベルの時代へ」 上記特集の目玉は、大塚英志×斎藤環の対談「ライトノベルをめぐる言説について」。大塚は、「COMIC 新現実」で…

NHK「クローズアップ現代」〜ブンガクに異変アリ!?

今夜NHKテレビで放送された「クローズアップ現代」で、「ブンガクに異変アリ!?」という話題をやっていた。若手作家が続々デビューして同世代にウケてます、ってな内容。25歳以下の作家を文学系/エンタテインメント系の区別なくあれこれ紹介しつつ、高橋…

クイーンと斎藤環、『文学の徴候』

最近自分が書いたもの 「ライヴ・エイドという頂点――クイーンとメッセージ性」 → 「ロックジェット VOL.19」(特集クイーン Beautiful! シンコーミュージック発行)ISBN:4401619161 上記雑誌には、斎藤環インタヴュー(「クイーンが好きであるからには、屈折…

佐藤友哉『鏡姉妹の飛ぶ教室』

ユヤタン版『漂流教室』『クビツリハイスクール』『ドラゴンヘッド』『不思議の国のアリス』……。 最初のページからいきなり大地震が起こって、土中に埋まってしまった校舎で展開される素っ頓狂なお話。実にご都合主義なことに、ごくわずか生き残ったのは生徒…

「文藝春秋」

今朝、新聞を開いてのけぞった。「文藝春秋」ISBN:B0007LT6HK、いつもの分量のスペースを使うだけでなく、「芥川賞発表全文掲載」と大書した全面広告(阿部和重の大きな写真入。どっかーん!)と組み合わせた形になっていたのである。 単行本『グランド・フィ…

村上春樹原作映画「トニー滝谷」

市川準監督のこの映画の試写に行ってから、けっこう時間がたってしまったが、公開中なので雑記っておく。ちなみに原作は、短編集『レキシントンの幽霊』に収録されている。 イラストレーターのトニー滝谷は、服を着るために生まれてきたような女と結婚する。…

車が駅に降ってくる。ホームレス、『グラスホッパー』

今日のTVニュースを見て仰天。京成電鉄千葉線の幕張本郷駅をまたいでいる陸橋から車が飛び出し、線路のすぐ脇に降ってきたという。駅の上みたいな場所にかかっている陸橋でも、ガードレールやらフェンスやらは、そのくらいの強度しかないわけですね……。 朝の…

阿部和重『グランド・フィナーレ』(ついでに村上龍『ラブ&ポップ』)

阿部和重、芥川賞受賞記念ということで……。 「群像」2004年12月号に掲載された『グランド・フィナーレ』の主人公はロリコン男。奈良の女児誘拐殺害事件の話題がまだ消え去らない最中、こんな作品が芥川賞候補になるとは、時宜を得ていると申しましょうかなん…

ティルマンス展、仲俣暁生『極西文学論』

上記『カンヴァスに立つ建築』展を、たまたま見る成り行きになったのは、ヴォルフガング・ティルマンス展に出かけたら、チケットの内容が抱き合わせだったからだ(これは恨み言ではない。空想建築の数々も楽しめました)。 仲俣暁生(id:solar)『極西文学論…

山田正紀著『イノセンス』

今年を回顧する特集において、押井守監督『イノセンス』は、期待はずれだった作品の代表格みたいに扱われている。日本SF大賞を受賞した同作は、中華シーンや球体関節人形の動作、店内でのアクションなどに代表される映像美には感激したが、ストーリーはいま…

K.K.「ワラッテイイトモ、」と村上春樹『アフターダーク』

遅ればせながら、早稲田のアップリンク・ギャラリーにて、K.K.の「ワラッテイイトモ、」を見てきた。これはキリンアートアワード2003の審査員特別優秀賞を授与されたヴィデオ作品である。芸術性云々よりも、TV番組「笑っていいとも!」の画像を大量に取り込…

舞城原作・戯曲版『バット男』

本屋の文庫コーナー平積みで、「ん、草間彌生?」と思う表紙を見つけた。黄色の点々を浮かべた緑色が下部を縁どっている。そして白の斑点を散らした赤色が紙面の大部分を覆う。完全に草間の「水玉強迫」パターンである。 でも、違った。舞城王太郎を特集した…

ラノベ関連本

『このライトノベルがすごい! 2005』 ISBN:4796643885 『このミステリーがすごい!』編集部・編のはずなのに、記事構成にあちらほど起伏がない。『ラノベ完全読本』みたいなインタビューや座談会がないので、データばかり羅列される印象が強い。特に1ページ…

『ファウスト Vol.4』

11月15日付けの文学フリマの雑記と同様、読み終わったものに関し、気が向いたらその都度感想メモを追記するかもしれない。ほかの本と並行して読んでるので、なかなかこの厚さを終えられない。自分、読むの遅いし……。 第一特集 文芸合宿! Live at 『ファウス…

文学フリマ

昨日、第3回文学フリマに行った。第1回の時は、西尾維新、佐藤友哉、舞城王太郎、太田克史参加の同人誌『タンデムローターの方法論』を購入し、並んでユヤタンのサインをもらうなんてこともしたけれど、第2回は行かなかった。で、第3回は、青山ブックセンタ…

高原英理『ゴシックハート』

ゴスロリやら球体関節人形やら、暗黒っぽいものの小ブームはあるのだから、こんなゴシック・カルチャー周遊本が登場するのも当然だろう。人外、残酷、身体、猟奇、異形、両性具有、人形、廃墟と終末など、各章ごとにテーマが設定され、作者の好みに応じてい…

金原瑞人『大人になれないまま成熟するために』

大人になれないまま成熟するために―前略。「ぼく」としか言えないオジさんたちへ (新書y)作者: 金原瑞人出版社/メーカー: 洋泉社発売日: 2004/10メディア: 新書 クリック: 5回この商品を含むブログ (22件) を見る金原ひとみのパパによる新書。娘は『蛇にピア…

「Comic新現実」に「悪魔のようなあいつ」、栗本薫

大塚英志プロデュース「Comic新現実」Vol.1、購入。とりあえず、旧作の再録「悪魔のようなあいつ」(阿久悠作・上村一夫画)をはじめて読む。掲載ページ冒頭にある解説では触れられていないが、この話のTV版が、ある意味でやおい、ボーイズ・ラヴの源流なの…

『雫』、再び大槻ケンヂ

「波状言論臨時増刊号 美少女ゲームの臨界点」の目次には、「『雫』の時代、青の時代。」、「『雫』の時代の終わりから」というタイトルがあった。この本では、『雫』が発売された1996年を美少女ゲーム運動のスタートととらえ、その後のあれこれを考察してい…

『ニッポニアニッポン』で斎藤環とジョン・ディーコン

阿部和重『ニッポニアニッポン』が文庫化された。ここに掲げた表紙は単行本のものだが、文庫もこれと同様に、クイーン《オペラ座の夜》のジャケットのパロディを使っている。で、斎藤環が解説で、この小説における「カードキャプターさくら」や「おジャ魔女…